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その後、今度は先生の方から裏話的なことを聞かせてもらった。あいつのメモを盗み見して共犯者になったとか、実はここの教師になることを狙っていたとか、長期休みの時に★シールが剝がれていないかチェックさせられているとか、蔓の調整は影を見ながら毎度毎度、手作業でやっているとか、半分愚痴の内容でなかなか面白かった。
ふと気になり、質問してみる。
「ここの教師になるまで年単位で時間がかかったと思うんですけど、その間、藤棚の不思議は放置だったんですか」
「うん。腕の調整をしなくても素で人影ができるようになってたし、ルールは守ってるはずだからね。完成度は下がるけど、本来の不思議としては成立してたからOKじゃないかな」
それもそうか。確かにルールには逆らっていない。
「あ、でもね、ここに赴任して来た時にある問題を見つけちゃったんだよね。それがこの、懐中電灯なんだけど…何かわかる?」
「え……あ、電池切れですか」
「正解~。これ、一か月に一、二回の周期で音が鳴るようになってるんだけど、六年くらいしか持たなくてここに来た時にはもう電池切れちゃってた。取り替えが楽で助かったよ」
機械仕掛けは楽な反面、永久的ではない。きっとこれからも似たようなトラブルが起きるのだろう。でも、なんだかそういうのも楽しそうだ。さっきの先生も、愚痴を言いつつもその実嬉しそうに話していた。
時刻は二十一時になったものの、未だ例の七星さんは現れていない。しかしそんなことは気にせず、私達はまだまだ話しを続けていた。
「あとこれ、聞いてみたかったんですけど、どうして不思議を作ろうと思ったんですか」
「うーーん。難しいね……」
陸先生は暫く黙り込んだのち、こう続けた。
「……多分、自分の足跡をカタチとして遺したかったんじゃないかな。
学生でいる時間って、長いように思ってても、いざ終わってしまうとすごく短く感じるんだよね。内海さんも卒業間近に実感すると思うよ。
その魔法のような時間が終わると前々から知っていたのに、ちゃんと理解っていなかった、理解っていると思っていた。って、どうしても思っちゃうんだ。あいつはちゃんと理解ってたっぽいけど。
でもなんでそう思ってしまうか、理解っていると錯覚してしまうのか、それこそ不思議なんだ。
もしそれが解けた時、その頃を、その時間を、鮮明に振り返れるか。そのための足跡を、あいつは遺したかったんだと思う……俺目線ではね」
「………」
私は何も言えなかった。まだ実感のないことだから。でもきっと、私もそう感じるようになるのだろう。
手持ち無沙汰さにミルクティーを飲もうとするが、中身は既に空だった。
「なんか気まずくなっちゃったね。ごめん」
「いえ……
お二人は、幼馴染なんですか。すごく、仲が良さそう」
「いや、高校からの付き合いだよ。
でも、唯一の親友だ」
「…羨ましいです」
ベンチを立ち、空いたスチール缶を捨てに自販機横に出ていく。
「あの、ちなみに七つ目の不思議ってなんですか。次は先生からのヒント待ちなんですけど」
「あぁ、それはあいつが来てからに…おっと、噂をすれば、だ」
先生が向いている方向を私も見る。車のライトによる逆光の中から、ひとり分の人影がこちらに近付いて来ていた。よくそうだとわかったな…親友だとわかるものなのだろうか。
その人は息を切らしながらここまで来て、
「悪い、遅れた。はぁ、久しぶり、陸」
と。
「おう。お久~、つなぐ。
それで、この子がメールで言ってた内海さん」
「え、あ、内海です。どうも」
「え、ホントに女の子じゃん。やるねぇ。
まずは、おめでとう。俺が七星です」
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