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『七不思議の掟』  ・損害が生じないものを…物損や傷害、著しい水の消費等は避ける  ・イタズラと思われないものを…警戒され、調査されてしまうと厄介なため  ・可能な限り遠隔で作動できるものを…毎回現場で作動させているといつか怪しまれてしまうため  ・長くもつものを…卒業後も作動し続けることが望ましい  ・口外を禁ず 「んぇ??」 てっきり地図やら暗号やらが書かれているものと期待していたため、私はなんとか現状を理解しようと脳内CPUを働かせるが、見事にフリーズ。  その後、(なか)ば放心状態で掟なるものを見るともなく読み返していたところ、下の余白に★のシールが貼られていること、またその下に「→美術室」と記されていることに気付いた。七不思議の一つは美術室にあると、そう表しているのだろうか。もしかして……と心当たりがあるが、それを考えるのは一旦中断し、この掟から読み取れることは何かあるかと確かめていく。  まず、この本によると七不思議は作られたものであるということ。よってこれはオカルトではなく、ミステリーであるのだと認識を改める。少しだけ心が軽くなった気がした。  また決定的なのは、この掟を作ったのは生徒であるということ。わざわざ「卒業後も」と書いてあるから確定だ。それと、おそらくその生徒は既に卒業しているということ。もしこれが「噂」に関わるものだとすると、十年近く前からここにあるということになる。さすがに未だ留年しているなんてことはないだろう。ただ、これが「噂」の不思議だという確証はなく、別の新たな不思議ということも考えられる。十中八九、既に卒業していると思うが、まあそれはこれからわかっていくことだろう。  四つ目以外の項目に関しては、とにかくバレないことに徹底しているらしい。実際、これがもし「噂」の不思議だとすると、十年間バレていないわけだからなかなかの本気度を感じる。それに、「損害が生じない」なんと立派な掟だろう。胸に刺さるよ。  こんなもんか、と一息ついたところで時計を見ると十七時前だった。微妙にお腹も空いてきたため、掟本(おきてぼん)を戻し元の状態にしてから帰路に就いた。  そういえば、あの掟本の存在は七不思議の一つに含まれるのだろうか。急坂が続く帰り道を歩きながらふと思い返す。それもまぁ、今後調べていくうちにわかっていくことか、と結論付けたところであることに気付く。  私は、この七不思議を許している。今、さも当然であるかのように「今後調べていく」と私は考えていた。これまでオカルトを避けていた身であるのに、今回は寧ろ積極的に関わろうとしている。それはなぜなのか。おそらく、オカルトではないという点、また、損害が生じないと約束されている点でこの七不思議を許容するに至ったのだろう。オカルトではないし、迷惑にもならない。なんとも言い訳がましいと自分でも思うが。  しかし、この気持ちを抑え込むことも無視することも既にできなくなっていた。私は確かに、ワクワクしていた。この激しい鼓動は、坂道を上っているからではないとわかっていた。「本物の七不思議」、そう知っているのは私のほかにもいるのだろうか。それに、あの掟を作った人は今何を?この先どんな不思議がある?知りたい、どうしようもなく知りたい。考えることが山ほどあって忙しい。これからもっともっと忙しくなるに違いない。歩調は次第に速くなっていき、息を切らすのもお構いなしに坂道を行く。  家に帰りコップ一杯の水を飲み干した後、私は時間割表をリュックの中から取り出す。掟本に記された場所は美術室。運が良いことに、選択授業は美術にしていた。 「次の美術は確か…」  胸の高鳴りは続くままだった。美術部員でない私が美術室に気兼ねなく入れる時間、それが来る日は、明日だ。  私の平穏で非日常な高校生活は、こうして動き出した。
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