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グウゼン、ヒツゼン、やっぱりトウゼン。
「あれ、町田じゃん!また会ったな、すげえ偶然」
「!……う、うん、そうだね」
後ろから声をかけられて、私はおっかなびっくり振り返った。その際、座っていた椅子から転がり落ちそうになるのをどうにか阻止する。
すらりと背が高く、端正な顔に爽やかな笑みを浮かべている彼の名前は櫻井雅。クラスメートにして、我が高校のサッカー部のエースだ。
「こ、ここ!このマック!駅の真正面だから、帰り道に寄りやすいの」
櫻井君が何かを言い出すより前に、私の口は勝手に言い訳の言葉を紡いでいた。
「でね?わ、私もその、ハンバーガー好きだからいっつも寄るというか。部活のあとって、お腹すいちゃうから、その」
「あれ、町田って運動部だっけ?小説書いてなかった?」
「ぶ、文芸部も頭使うの。そうすると、結構お腹すくっていうか、脳のカロリー消費する気がするっていうか、わかる?」
「あー、なるほど。あるかもな、そういうの」
心臓がばくばくと高鳴って煩い。きっと、顔が真っ赤になっている。おかしいなんて思われないだろうか。彼は、私の変化に気付かないでいてくれるだろうか。
嬉しいなんて、そんなことを思ってしまった。
私みたいな地味な女子にいつも気づいてくれるだけじゃない。小説書いてなかった、と言った。彼は私が入っている部活を知っていてくれたのだ。
――少しは、気にして貰える、のかな。……ううん、そんな風に思うの、自惚れだよね。
その場で一言二言話しただけで、その日の交流は終わった。それでも、私にとっては幸せ以外の何物でもなかったのだ。
教室でなんて、絶対に話しかけられない高嶺の花。ここでならば他の人に知られることもなく、ちょっとした雑談くらいはできるのだから。
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