余命宣告から

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「本当に、心から嬉しい。けど、今の正直な思いを話してもいいか?」 「はい」  果歩も何となく気づいている。涼太朗は自分の病気のことが気になるのだろう。 「俺は、果歩さんに出会った時から既に余命1年と言われていた。まさか、看病してもらうために来てもらった果歩さんとの出会いが自分の今までの人生にない幸せを運んで来たなんて思いもしなかった。自分の最期を看取るために来てくれた果歩さんに恋をするなんて。最初は命尽きるまで、陶芸をして果歩さんとの楽しい時間がもてるだけで幸せだったんだ。だけど、毎日一緒に過ごしてそれだけでは足りなくなって……。あの日、自分が自分じゃないような不思議な感覚で、自制心も働かず何かに導かれた。運命の日だと思ったんだ。勝手な事を言っているな……」 「いえ、私も同じ感覚でした。そして、後悔もしていません」 「果歩さん……。それでも、やっぱり今の俺の状況では、喜びと戸惑いがあるのが正直な気持ちだよ。果歩さんの未来にも大きな影響を与える……」  果歩は、涼太朗の気持ちが痛いほどわかる気がする。残される者の哀しみはもちろんだが、残していく者も不安だろう。 「涼太朗さん、素直に喜んでもらえませんか?私は、本当に嬉しいです。後悔なんて全くありません。それよりも、この子に一日でも長くパパの姿を見せてあげて下さい。沢山の思い出を私達に下さい。人の命には限りがあります。元気な人でも、事故に遭ったりして突然命を奪われることもあるんです。涼太朗さんはまだ時間があります。残りの時間の全てを私達に下さい」 「果歩さん……」  涼太朗は涙を流す。 「橘果歩にしてもらえますか?」 「本当にいいのか?後悔しない?籍を入れなくても認知はするし、ふたりには俺の全てを遺すつもりだよ」
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