余命宣告から

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 そして、最後の大作の花瓶は……。 「「「……」」」  驚きすぎて目を見開き無言の3人とは違い、涼太朗は自分の出来に満足し満面の笑みだ。  花瓶の素晴らしさに驚いていた3人は、普段あまり見ることのない涼太朗のキラキラした笑顔にも驚く。  余命宣告されてから6カ月。  陶芸家としての人生は、この作品をもって幕を引くことを決断した。  立ち会った3人は、生涯この瞬間の涼太朗を忘れる事はないだろう……。  高木に最後の作品を全て託した涼太朗は、あるお願いをしていた。それを果歩が知るのは、まだ先だ。  そして、決断を口にする。 「僕は、陶芸家として後悔のない作品を作り上げた。陶芸家『橘涼太朗』は、この作品をもって引退します。そして、これからはただの『橘涼太朗』として、残された時間を少しでも長く生きれるように、治療をしたいと思います」 「先生…私も賛成です。先生は、充分素晴らしい作品を生み出されました。あとは、果歩さんのためにも長生きして下さい」  高木は長年涼太朗を見てきたが、果歩との生活が始まってから確実にいい方向へと変わっていっている。完治はしなくても、少しでも長生きして人生を楽しんでもらいたい。  『ウンウン』と首を縦に振る佐藤。 「涼太朗さん……」  奇跡の夜が夢のように感じていた果歩は、涼太朗の気持ちが伝わり、感動の涙を流す。
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