余命宣告から

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 ナースステーション横の部屋のベッドに寝かされる。そこへ、師長が通りかかった。 「山岡さんどうしたの?」 「師長!果歩さんが体調が悪いようで、廊下でしゃがみ込んでて」 「あら。果歩ちゃん大丈夫?」 「はい。ちょっと目眩がして」 「他に症状は?」 「胃がムカムカします」 「何か思い当たる事はあるかしら?」  師長は長年の経験から察することがあった。 「……。はい」  果歩も思い当たることがあるのだ。 「えっ?えっ?」  若い看護師だけがまだ状況が分からない。 「山岡さん、ここは私に任せて戻りなさい」 「わかりました。果歩さんお大事に」  ベテランの師長は、果歩に向き直る。 「先ずは、産婦人科に受診ね。すぐに手配するわ。ひとつだけ聞いてもいい?」 「はい」 「おめでとうでいいのかしら?」  師長は相手が涼太朗であることや、病気が完治しないことも理解した上で、果歩がどう思っているか聞きたかったのだ。 「はい!」  しんどそうにしながらも、意思の強い眼差しで満面の笑顔で返事した。師長は思わず果歩を抱きしめる。師長は、娘のように思っている果歩の決断に全力で応援しようと思う。 「おめでとう!」  今度は疑問ではなく、心からのお祝いの言葉を述べる師長だった。  師長の手配ですぐに産婦人科を受診させてもらい、妊娠3ヶ月と分かった。  穴窯の作業が終わった日、満月の日に結ばれた一夜で出来た子。奇跡の子だと素直に喜ぶ果歩だった。
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