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おままごと
忘れることのない料理がある。目玉焼きだ。
正確には目玉焼きハンバーグーー。
***
幼い頃から、慣れ親しんだ家。
母が洗う食器の音。いつもの日常。
でもここに居るはずのもう一人の大切な家族はいない。
父だ。
「あの日」、私はもうすぐ1年生になるまだ幼い子供だった。
父は重い病気を患っていたらしい。
いつもベッドで寝ていた。
私はその傍ら、よく父とおままごとをした。
父はお客さん、私はコックさん。
「コックさん、今日のおすすめは何ですか?」
「きょうはねー、ハンバーグがおいしいですよ。」
「では、ハンバーグをお願いします。」
いつも優しい笑顔で、注文してくれる父。
そんな日々が続いていたが、
ある日を境に、父は家に戻らなくなった。
幼い私には、入院とかお見舞いとか、よく分からなかったが、母に連れられて父に会いに行けることを純粋に喜んでいた。
病院でも、父を相手におままごとをした。
「いらっしゃいませ、パーパ。
きょうはなにがいいですか?」
「それでは…、スパゲティを…お願いします。
ゆで卵……も、のせてね。」
「はーい」
持ってきたオレンジ色の折り紙をハサミで切りながら、私はせっせとお料理を始める。
「できましたー」
「いただき…ます。おいしいね。
たくさん食べて、パパ…元気にならないとね。」
「あーちゃんがつくったの、たべたらゲンキになる?」
「なるよー、パパ、あーちゃんの…お料理が大好き。」
「じゃあ、まいにち、つくってあげる!」
次の日も、次の日も、私は父に料理を作ってあげた。
ある日は折り紙で。ある日は絵を描いて。ある日は粘土で。
幼い子供ながらに工夫して、心を込めて作った。
父が元気になることを信じて。
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