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対峙すると平川の気に圧倒される。 ともに中段に構えているが、 (全く隙がない) と土方は思い、前に進めなかった。 (まぁ、いいか) と土方は思って、胴を狙って踏み込む。 ともうそこには平川の姿は無く、いつのまにか土方の背後に気配を感じた。 「平川君には敵わない」 と土方が竹刀をおさめると、 「ありがとうございました」 と平川は、深く頭を下げ、竹刀をおさめた。 「実に惜しい」 と土方は、竹刀を床に置いて座ると、平川も竹刀を置いて床に座る。 その時、爽やか風を土方は感じた。 「平川君は、風だ」 と土方が言うと、 「風ですか。  雅号を考えていましたが、風にします」 と平川は、笑顔で言った。 「また会えるか?」 と土方が聞くと、 「会えますよ」 と平川は答え、しばらく2人で道場の窓から見える月を眺めていた。 (また会えたな) と思いながら、斉藤と話しをして歩いている平川の姿を土方は見つめた。
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