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最後
希が二十歳になり、就職で地元を離れることになった。純粋に寂しかったことを覚えている。
彼氏でもなにもない。ただ、顔を見れることがなくなってしまうことが寂しかった。
希が地元を離れてから数カ月後に、一度一人で住み始めた希の家に行ったことがあった。素直に「会いたい」と伝えて会いに行った。会いに行ったが、一緒にご飯を食べて、希の家に泊まって帰っただけだった。
それ以外は本当になにもない。
それが二人の全てを物語っていたのだと思う。その関係が何年経っても普通に感じてしまっていたからだ。もう、家族のような関係になってしまっていた。その日が希と顔を合わせて会話した最後の日となった。
それ以降はお互い全く連絡をとらなくなって、数カ月が経過していた時に、ある日突然夜中に希から電話がかかってきた。
俺は寝ぼけながらも電話に出た。
「いきなりごめんね。寝てたでしょ。仕事で色々あってね・・」
電話越しだが、希が泣いているのがすぐに分かった。たくさん話したと思う。こんなに話したのはいつぶりだろうか。
何時間でも希と話していた。
「私って頑張ってるよね?」
そう聞いてきたのを今でもはっきり覚えている。
「一度たりとも、希が頑張ってなかったことはなかった。常に全力で、何事も負けずに一生懸命やってきたのも知ってる。希は今でも一生懸命頑張ってるよ。俺に保証されても困るかもしれないけど、俺が心から保証する」
希は電話越しで笑っていた。
「ありがと。またなんかあったら頼らせてね」
「いつでも電話していいよ。いつでも頼って」
そう言って、お互いに
「遅くまでごめんね。ばいばい。」
と言い、電話を切った。二人のルールがなかったかのように、同時に電話を切った。それが希と会話した最後だ。
何カ月後かに希に彼氏が出来て、順風満帆に過ごしていることは友達から聞いた。聞いた時は、俺は本当に幸せだった。心の中は、九十九パーセントのおめでとうと一パーセントの後悔だった。
それから何年後かに、共通の友達の親が亡くなり、俺はお通夜に参列した。
帰り際だった。希の姿を見た。目が離せなかった。希との間を歩く人を目でどけながら自然に希を見ていた。
そうしていると希も俺に気づき、目が合った。あぁ、全然会わなくとも、未だに表情を見ただけで希のしたいことが分かるんだ。と痛感した。希は俺に何かを話したそうな顔をしていたが、俺は目を背け、話すことなく会場を出た。
その何カ月後かに、希は結婚をした。あの日、希は何を話したがっていたのだろうか。だが、話したら俺はまた希を好きになっていたのだろう。そんな姿を希は見て、辛い思いをしてしまうのだろうと思っていた。話せば希に迷惑がかかると思っていた。
話さなかったことを何度も後悔もしたが、いつしか話さなかった自分を許すようにもなっていた。その日が希を見た最後の日だった。
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