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クロ
目を開けたらそこは全く知らん世界。
暗いところ、どこかの工場の裏だということはなんとなく分かった。何かを作る音が響いていた。
ワシはなぜこんなところへ居るのか。どうやら訳ありじゃの。必死に自分の記憶を遡るが、なぜこんなところにいるのか全然思い出せなかった。
立てない。四つん這いにしかなれなかった。歩けるのか。恐る恐る一歩動いてみた。その足取りは思ったより軽快だった。ただ、前の歩き方とは違い、地面に両手をくっつけて歩いていた。
こうしてでもしないとワシは動けなくなったんじゃの。歩いていると、建物へ日が差しているのが分かった。しばらく歩いていると、ガラスに映った自分の姿を見て納得することになった。
黒い猫じゃった。あれ、ワシ人間じゃなかったかの。いつのまに猫になってるんじゃ。これが生まれ変わりというものか、普通生まれ変わったら前世の記憶は消すんでないのか。多少驚きはしたが、猫になったことはすぐ理解した。
「前世のワシはどうやって死んだんかの・・」
そう思って、色々考えていたが、その時は自分が人間だった記憶しか思い出せなかった。まぁいいか。ここにいても仕方がないの。外に出てみることにした。
まったく知らない街並。人や車の交通量が少ない道路を探し、ひっそりと歩いていた。どこか目的地があったわけではない。ただ探検家の気分で歩き回っていた。
お腹が空いてきたの。どうやらワシは産まれたてで、何も食べていないのかと思っていた。親猫はどこへ行ってしまったのか。ワシの為に、食べれるものを探しに行っていたのかもしれない。そう思い戻ろうとするが、もう戻る道が分からなくなっていた。
すっかり辺りは少しづつ暗くなっていた。一日ぐらい食べなくとも生きれるじゃろ。歩いていると公園があったから、そこで休もうとした。ワシの前を通り過ぎた一人の男が立ち止まり、ワシに声をかけてきた。
「身寄りないのか。ご飯食べてないだろ。ガリガリだぞ。俺の家ペットダメだから飼うことできないけど、ご飯ぐらいならあげれると思うから、おいで」
そう言いながらワシを抱っこして、歩き出した。この声聞いたことがあるぞ。だが、思い出せなかった。抵抗するのが普通だったのかもしれないが、ワシは何一つ抵抗しなかった。なぜか抵抗する気が起きなかった。
少し男が歩くと、家に着いた。
汚い家じゃの。ワシは窓際に置かれ
「そこで待ってて。今食べれるもの調べて持ってくるから」
男がキッチンへ行った。
「ヨーグルトあったけど食べれるかな。大丈夫かな」
お皿にヨーグルトを入れて、携帯を片手に戻ってきた。
ワシを窓の外へ出して、窓越しだったが
「もしかしたら、アレルギー出るかもしれないみたいだ。出たらごめんな。明日まで一旦ここにいていいから、何か変化起きたらすぐ病院行こうな。無理はしないでな。食べれたらお食べ」
お皿を置いた。ワシは素直にお腹が空いていたし、ゆっくりだが食べることにした。
「お、食べた。良かった。名前はなさそうだな。うーん・・」
そう言ってしばらく悩んでいた。ワシは何も気にせず食べていた。
「クロだな!」
見たまんまじゃな。こやつはバカなのだろう。ワシは食べながら思っていた。
「俺の名前は翔太。お腹が空いたらここへおいで。飼うことはできないけど、こっそりご飯はあげれるから。」
気づけばワシは食べることをやめていた。
「どした。お腹いっぱいか」
そう言っていたが、そうじゃない。ワシの記憶が蘇っていた。こやつを知っていると思った理由も、なぜ抵抗をしなかったのかも。
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