再会

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再会

 そして今、目の前にまた翔太がいる。なんということじゃ。しばらく見ていない間に大分大人になったの。  カレンダーを見たら、世界はワシが最後に見た年から九年経っていた。すっかりスーツも似合っている。ワシは純粋に嬉しかった。  次の日も翔太の家にご飯を食べに行った。次の日なんて猫のご飯を買えるだけ買って来ていた。 「どれも美味しそうだし、クロの好きなもの分からなかったから、気になるもの全部買って来ちゃった」  なんて笑っていた。自分のご飯はチンするご飯と買って来た少しの総菜なのに、野良猫の為にここまでするのかとワシも内心笑っていた。相変わらず優しいやつじゃの。  それからは毎日のように、ワシはご飯を食べに来た。ワシの為にカーテンの端を開けてくれてくれたから、会いに行ったらすぐに翔太は気づいてくれた。ご飯を食べに来ていたある日、翔太が話し出した。 「クロ。俺ね、学生の時にずっと片思いだったかもしれない人が、今でもずっと忘れれなくてね。会わなくなっても、連絡を取らなくなっても心の中に居続けるの。そこから俺を好きだと言ってくれる人もいたけど、結局長続きしなかった。俺がその人を忘れることが出来ていないのに、一緒にいるのは失礼になるんじゃないかと思って、俺から離れることがたくさんあった。でもね、昔に俺の大切な人が言ってくれたの。愛の形なんてきっと人それぞれだって。だから俺の愛の形は永遠にきっと百パーセント満たされることはないんだと思う。新しい人が現れても、奥さんになる人が現れても、きっと俺の愛の形の一パーセントはその人で居続けるんだと思う。それで俺はいいの。もう忘れることを諦めた。俺はその人のこと永遠に忘れない。いや、きっと忘れたくないんだと思う。そう決めたの」  そう言いながら窓から見える綺麗な星空を眺めていた。綺麗な涙が流れていた。ワシの見てきた涙で一番綺麗な涙じゃった。最後の恋は実らなかったんじゃの・・少し寂しくもなった。じゃが翔太の決めた道じゃ。ワシは見届けようと思っていた。いつか彼女を連れてくることを楽しみにしていた。  翔太は出会ってからたくさんの話をしてくれた。ただ、家族への恩返しの仕方と希への後悔のことばっかりじゃったが。きっとずっと「やり残したこと」なのだろう。いつか精算できる日が来るといいな。  翔太の気持ちは間違っておらん。ただ相手に感謝をすればいいだけなのだ。凄く簡単なことなのに、簡単すぎて見えなくなってしまうのじゃろう。  ・・ワシも翔太に感謝を言えなかったの。  仕事が忙しくて帰りが遅くなった時も、ワシにひどく申し訳なく謝っていた。こないだなんて、息を切らして帰って来て、 「クロごめん。これから飲み会なんだ。ご飯いつもより早く準備するから、食べれる時食べてね。カラスに気をつけてね。」  そう言って、ご飯を用意し終わったら、すぐに家を出てった。ワシにご飯をあげるためだけに一度家に戻ってきたのだろう。本当にお人好しにも程がある。感謝しかなかった。  なるべくご飯の時以外は、翔太の迷惑にならんようにワシは暮らしていた。他の猫達がこの場所に居座ったりしたら翔太と翔太の周りの人にも迷惑がかかる。  ご飯の時以外は、翔太の家を離れて過ごすようにしていた。オス猫に襲われそうになった時もあったが、抵抗して逃げた。そんなワシの異変に翔太はすぐ気づいた。 「去勢手術するか。これ以上他の猫に襲われるの嫌だろ。ってか俺が嫌だ。でもクロは子供を産みたいかな。俺の身勝手でクロの未来を壊したくないな・・クロどうする。子供産めなくなってもいいか?」 「ニャーン」  いいよ。ありがとうと回答したつもりで言った。翔太はワシの顔を見てすぐに理解してくれた。ワシの為に色々としてくれた。本当にワシは幸せだった。共に人生を歩めることを心から嬉しく思っていた。  周りの住居者から苦情を言われることもあった。ワシはそんな翔太の姿を見て申し訳なくなった。確かに毎日のようにご飯を食べに行っていたら、そりゃいつかは来るわな。  一日ぐらい食べなくとも大丈夫じゃろう、せめて行く頻度を抑えようと思い、翔太の家に行かない日があった。  そしたらこやつはワシを探しに来た。凄い汗をかいていた。たくさん色んなところを走って探してきたのだろう。ワシを見つけて凄く嬉しい顔して駆け寄ってきた。ワシを一切怒らなかった。むしろ謝っていた。 「いつもの時間になっても来ないから、嫌われたと思った。ごめんね、クロ。猫を飼える家に引っ越せたらいいんだけど、お金が全然貯まらなくて・・ごめんね。ご飯食べに帰ろ?」  本当にこやつはなんなんだ。ワシと居てなんのメリットがある。ワシは元々ただの野良猫じゃ。こやつに迷惑しかかけてきていない。じゃが、この優しさに応えなければ、もっと迷惑をかけてしまうのだろう。多分何日もかけてずっとワシを捜すのだろう。  そもそもこやつは自分のメリットなんて考えて生きていない。そういう子だ。昔からずっと相手のことを心配し、相手のことを想い、自分のことなんて後回しじゃった。ワシが居てこの子が幸せになるのなら応えたかった。  それからは毎日食べに行くようにした。翔太は凄く安心し喜んでいた。ワシに首輪を付けた。 「この子が何かしたら、この電話番号に電話をしてください。また、この子になにかあったらすぐに電話ください」  と書いて、電話番号を書いていた。 「これでもう大丈夫だな」  と勝ち誇った顔をしていた。
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