お盆

1/1

7人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ

お盆

 翔太と暮らして、早三年が経とうとしていた。その年のお盆に急に 「クロ、俺今年も実家に帰るけど、クロも来るか」  そう言って、半ば強引に連れてかれたことがある。お盆には実家に帰ることは一年目も二年目もしていたから分かってはいたが、ワシも一緒に連れてくとは思わなかった。  翔太のお母さんは引っ越してなく、またこの家を見れることになるとはの。ワシの部屋にはもう別の家族が住んでいた。久しぶりの翔太のお母さんだった。最初は凄くワシを見て嫌な顔をしていたが、すぐに暖かく迎え入れてくれた。翔太の顔を見れて凄く幸せな顔をしていた。  次は翔太の姉の家に行った。実家を出ていたのじゃの。ワシを見てお母さん以上に嫌な顔をしていた。「玄関から絶対入れてこないで」と凄く怒っていた。翔太は笑っていた。そんな翔太を見て、姉も凄く幸せな顔をしていた。  姉の家にお母さんも合流し、皆でご飯を食べた。その日はそのまま姉の家に泊まり、次の日には帰るとのことだった。来るまで約六時間かかるのに滞在時間は少なかった。  次の日になり、お母さんと姉にお別れをし、帰る際に 「クロ、ごめん。毎年最後に寄っていくところあるんだ。ちょっと付き合って」  そう言ってワシをどこかに連れてった・・どこじゃここ。車を降りて一緒に歩いていた。 「今年も来れたよ。久しぶり。なんと今年は新しい家族を連れてきました」  翔太の目線の先にはお墓が立っていた・・名前がワシの名前じゃった。墓は凄く綺麗で立派なものだった。花が既に添えられていたが、翔太も花を添えていた。長い間手を添えて翔太は 「また来るね」  そう言って、帰って行った。きっと毎年ここに来るために、お盆に帰っているのだろう。ワシのために。帰り道の車の中で、ワシに話してくれた。 「今の人はね、前に話した俺の大切な人、千代ばあがいるの。千代ばあのおかげで今日の俺がいるの。感謝してもしきれない。最後の最後まで迷惑をかけていた。いつも通り会いに行ったら、倒れていて既に遅かったの。脳の血管が破裂しちゃったみたい。俺毎日のように会いに行っていたのに、全然気づけなかった。そんな素振りもなくいつも元気だった。いつ俺が会いに行っても嫌な顔を一回もしなかったの。俺が負担かけたせいで亡くなってしまったとひどく後悔もした。でもね、亡くなってから知ったんだけど、冷蔵庫の中に俺の大好きなよもぎ餅が入ってたんだって。俺がいつ来てもいいように用意してくれたんだと思う。きっと千代ばあは、俺のせいで死んだなんて思ってないし、そう俺が思うことは望んでいない。千代ばあは身寄りがいなくてね。だからせめてもの恩返しでお墓を作ったの。おかんも姉ちゃんもすぐ納得してくれた。俺は一年に一回しか帰れないから、その間はおかんと姉ちゃんが綺麗にしてくれてる。俺と血の繋がりはないけど、俺は本当におばあちゃんと思っていた。千代ばあも言ってくれたの、自慢の孫じゃって。俺本当に嬉しかった。千代ばあは俺の心から大切な人なの」  馬鹿者。ワシのために・・本当にありがとうの。感謝するのはワシの方じゃ。翔太に出逢えて本当に幸せじゃった。そして今も幸せじゃ。ワシは何も翔太にしとらん。ワシは翔太から元気を常に貰っていた。ワシに「生きがい」をくれた。これ以上の幸せはないじゃろう。  しばらく車を走らせていると、もう一つ翔太が教えてくれた。 「実はね、さっき千代ばあには身寄りがいないって言ったけど、いたにはいたんだよ。全然知らない人たち。うっすい繋がりだけの人たち。生きてる間に一度も連絡とってなかった人たち。どんな繋がりかなんて興味なかったから聞いてないけど、ずっと千代ばあの財産の話しかしていなかったの。俺ね、その中の一人のおじさんに『遺骨はうちが管理してもいいですか』って言ったんだよ。そしたらその人さ『お前も財産が欲しいんだろ』って言って来たんだよ。本気でむかついちゃってね。一度も千代ばあのとこ来たことなかったし、千代ばあがねボソッと『ワシのところには誰も来ないからの・・』って凄い寂しそうに言ったことがあったのを覚えていて、俺ね・・初めて人を本気で殴ったの『お金なんて一円もいりません。好きにしてください。ただし、千代ばあと私達の前で二度とお金の話はしないでください』って言った。最初は警察だとか騒いでたけど、おかんも姉ちゃんも強く言ってくれて、その場は納まったんだけどね。そんなこんなで大分揉めて勝ち取ったの。千代ばあが知ったら怒られちゃうね」  と、凄い良い笑顔で言っていた。ほんとにこやつは・・と、心の底から誇りに思っていた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加