死因とお通夜へ

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死因とお通夜へ

 ピンポーンとチャイムが鳴り、俺の遺体が到着したみたいだ。決して広くない、決して綺麗だと思えない、俺の大切な家に帰ってこれた。良かったな俺。と自分の体を見ながら思っていた。  姉の家族、親戚。色々な方が俺に手を合わせていった。 「翔太らしい最期だな」そんなことを言ってる人もいた。ごめんなさい。最期まで俺は俺のままだったよ。そう思っていた。  そんな時、俺の知らない二つの家庭が入ってきた。  一つ目の家庭は夫婦で訪ねてきていた。多分両方四十歳前後だと思う。姉と対して変わらなかった。  二つ目の家庭も夫婦で訪ねてきたが、傍には四歳か五歳ぐらいの子供がいた。  リビングに入って来るや否や、両方の家庭が 「この度は大変申し訳ありませんでした」  と言い深い土下座をした。  ああ、思い出したよ。漫画のような死に方だったんだ。俺、子供がボールを取りに行ったのを庇って死んだんだ。帰り道の家の近くに小さめの公園があった。子供が何人かボールで遊んでいて、車は普段あんまり通らない道だけど、そん時は前方から車が来ていて、危ないな程度で通りすぎようとした時、俺の目の前をボールを追ってこの子が飛び出したんだ。  おいおい、漫画の世界だけじゃないのか。と思ったが、思いながらも既に俺は走っていた。多分スタートダッシュは世界一だったと思う。結局子供を庇う形で轢かれたのを思い出した。  俺、この人に轢かれたのか。ごめんなさい。俺のせいで深い傷を付けてしまった。この子供は元気だったんだな。良かった良かった。もうそんなに頭を下げなくていいですよ。むしろここまで遠かっただろうに。何も気にしないで下さい。そんなこと考えていたら、おかんが口を開いた。 「あの子はどうしようもないバカな子だけど、自分のことはずっと二の次で、自分の周りの顔色ばっかり伺って生きていた。自分が不幸せになることで、相手が幸せになれるなら、身をいくらでも差し出す子だ。その子を守ったことも、翔太からしたら当たり前のことをしただけ。翔太は貴方達を恨んだりなんかしない。ただ、あの子の分も幸せになってあげて。それが翔太の幸せになるのだから。ほら。顔を上げなさい。線香あげてって。遠いところ大変だったでしょう」  そう真っすぐな目で言い、背を向けて食器棚から紙コップを取り出そうとしていた。ただ、その肩は目に見えて震えていた。  それでも来客者は頭を上げず、 「本当に申し訳ございません。私がもっと注意していれば翔太君は亡くなることはなかったのに」  と泣きながら謝罪していた。次は姉ちゃんからだった。 「病院でも伝えたけど、あの子を死なせてしまったことを私は心から許せないし、ずっと後悔させてやりたいと思ってる。でも、そんなことする私をあの子は望まないことも分かってる。きっとあの子は一切後悔なくその子が無事で良かった。死なせてしまった貴方に申し訳ないな。と心から思ってる。あの子はそういう子だ。おかんや私には何も返さず死んだけど、胸を張ってあの子は間違った人生を歩んでいなかったと、正しい最期だったと心から思えるように、あの子が生きてきた過去を肯定できるように、貴方達を許します。ただし、おかんも伝えたとおり、必ずあの子の分まで幸せになってください。ほら。子供の前でそんな恰好しないで。顔上げて線香上げてって」  泣きながら轢いてしまった家庭、飛び出してしまった子の家庭は、俺に手を合わせてくれた。  俺が思ってることをきちんとおかんと姉ちゃんが伝えてくれた。さすがは俺のおかんと姉ちゃんだ。きっとおかんと姉ちゃんは行き場のない怒りがたくさんあったと思うが、それすらも俺の為に、俺のことを想い、殺してくれたんだ。  日も紅く染まる準備を始めて、俺の遺体は葬儀場へ運ばれていった。ってか俺、クロは今日死ぬんだった。体がやけに重くなってきた。せめて葬儀場までは行きたい。  おかんと姉ちゃんも葬儀場へ移動をしようとしたとき、当然のように姉ちゃんが抱っこしてくれた。 「あんた翔太に似ていい子だね。葬儀場の中には入れないけど行くかい?」 「ニャーン」  それが俺と姉ちゃん、いや、家族との最後の会話だった。  葬儀場に到着したら、俺は玄関前のスペースに座っていた。天候にも恵まれたから、なにも寒くなかった。ただもう体は動かせなくなっていた。  日が本格的に沈み出し、親戚や地元にいた友達、たくさんの人が来てくれた。ずっと見ていたが、素直に嬉しかった。  葬儀が始まった。クロ、俺の「やり残したこと」多分出来たよ。もう満足だよ。もうそろそろだなと思っていた。    そんな時、一台の車が駐車場に勢いよく入ってきた。電話をしながら入り口へ近づいてきた。 「もしもし。今葬儀場無事着いたから。うん。ありがと。お通夜終わったら帰るね。子供達よろしくね」  そう言って中に入ろうとしていた。  姉ちゃんめ、やりやがったな。きっと俺の友人の中で一番先に連絡したのだろう。  声だけで誰だかすぐに分かった。 「希(のぞみ)」という人だ。
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