来世再見

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

来世再見

 王偉(ワンウェイ)李偉(リーウェイ)は竹馬の友だ。幼い頃から塾で競い合って育った。  ある時、王偉(ワンウェイ)李偉(リーウェイ)の住んでいる街、(ユアン)を天災が襲った。  李偉(リーウェイ)王偉(ワンウェイ)に言った。 「王偉(ワンウェイ)。もし私に何かあった時は、私の家族のことを見てもらえないか? (リー)家の本家は遠く通州にある。弟はまだ幼い。この街で頼めるとしたら君しかいない」  王偉(ワンウェイ)李偉(リーウェイ)の肩を叩いて言った。 「いいよ。私も李偉(リーウェイ)に頼みたい。うちはこの街で親族こそ多いけど、(ワン)本家男子は私一人だ。もし私に何かあった時は、うちのことを李偉(リーウェイ)に気にかけてもらえると助かる。分家と仲が良いわけではないから」 「勿論。私で良ければ」  薄紫の花が咲く桐の樹木の下で、王偉(ワンウェイ)李偉(リーウェイ)は義兄弟の盃を交わした。  一月後、王偉(ワンウェイ)が亡くなった。原因不明の急死だった。  李偉(リーウェイ)は悲しんでいる王偉(ワンウェイ)のご家族に挨拶をしたが、本家である(ワン)家では早速跡取りの話を巡って分家同士が言い争っていた。  李偉(リーウェイ)王偉(ワンウェイ)のご両親に申し込まれ、成人後に王偉(ワンウェイ)の妹王芳(ワンファン)と結婚し、婿に入った。  李偉(リーウェイ)(ワン)本家の家業を継ぎ、名目上は妻である王芳(ワンファン)を代表とし、自身は側に控え、実務で(ワン)家を支えた。  李偉(リーウェイ)王偉(ワンウェイ)の両親と自分の両親の最期を見取り、王偉(ワンウェイ)のもう一人の妹王静(ワンジン)の子ども王秀(ワンシュウ)を養子として引き取り、王芳(ワンファン)と共に後継として育てた。そして多くの財を成し、王芳(ワンファン)王秀(ワンシュウ)に今後の家業の訓示を遺して亡くなった。  王偉(ワンウェイ)は没後しばらくして(ユアン)の隣町で生まれた。前世の記憶を思い出したのは十七歳の時。彼が前世で亡くなった年だ。  両親に願い出て、夏の連休に(ユアン)を訪ねた。  (ワン)本家は残っていた。(リー)家も残っていた。李偉(リーウェイ)の弟李英(リーイン)が継いだようだ。  王偉(ワンウェイ)は街の中をあちこち歩きまわって、紙銭を用意してから郊外の墓地へ向かった。道の途中にある蓮池の花が満開だった。  王偉(ワンウェイ)は王家の両親の墓の前で紙銭を燃やした。李偉(リーウェイ)王芳(ワンファン)の墓、妹達の墓、李偉(リーウェイ)のご両親の墓、親戚の墓、友人の墓に紙銭を燃やし、最後に自分の墓にも紙銭を燃やした。魂はここにあるけれど、墓を建ててくれた皆に感謝して。 「多謝(ありがとう)」 「……どういたしまして」  返事が聞こえて王偉(ワンウェイ)が顔を上げると、奥の小道から李偉(リーウェイ)がにこにこしながら歩いてきた。 「……李偉(リーウェイ)?」 「私だ」  王偉(ワンウェイ)は口を開けた。 「どうしてここに?」 「君を待ってた」 「ここで?」 「待ち合わせ場所を決めていなかったから。ここならいつか会えるかもと思って」  微笑みながら目前まで来た李偉(リーウェイ)王偉(ワンウェイ)は嬉しくなった。 「よく私が分かったな?」 「分かるよ」  李偉(リーウェイ)は笑う。  王偉(ワンウェイ)李偉(リーウェイ)の全身を眺めて言った。 「李偉(リーウェイ)は変わってないな?」 「五十七歳で亡くなったんだ。でも、君には十七歳の時の私の姿で映っているんだろう」  王偉(ワンウェイ)は驚いたものの、李偉(リーウェイ)に少しだけ手を伸ばした。触れられそうなくらいはっきり姿を視認出来るのに、手がすり抜けてしまう。  日の光を浴びた(ゆうれい)は気抜けするぐらい健康そうな姿だった。 「どうしてここにいるんだ?」 「君を待ってた。次に行ったら、君に頼まれていたことを『やり遂げたよ』と伝える機会が、無くなってしまうかもしれないから」  王偉(ワンウェイ)の視界が歪んだ。 「もし私がここに来なかったらどうするつもりだったんだ? 皆はもう次に行ったんだろう? 待たないで行っていいんだよ」  李偉(リーウェイ)は首を振って言った。 「でも、会えただろ?」  王偉(ワンウェイ)の目から涙がこぼれた。 「李偉(リーウェイ)、君が守ってくれた街を見たよ。私が継ぐより君はよくやってくれた。(ワン)家を護ってくれてありがとう……」 「君に褒めてもらえて光栄だ」  李偉(リーウェイ)はにっこり笑った。  李偉(リーウェイ)はそれから、王偉(ワンウェイ)が亡くなった後の出来事を王偉(ワンウェイ)に語った。(ワン)家は王秀(ワンシュウ)の系譜で継いでいるらしい。長い語りを聞き終えて、王偉(ワンウェイ)は深呼吸した。 「李偉(リーウェイ)、ありがとう」 「どういたしまして」 「李偉(リーウェイ)は次に行かないの?」 「ん? もう行くよ」  あっさりと言われて王偉(ワンウェイ)は慌てた。 「え? もう? 催促してごめん」 「ああ。もう未練はなくなったから、行かないと」  王偉(ワンウェイ)は急に心細くなった。 「次、また会えるかな……」  李偉(リーウェイ)はにこにこ笑う。 「縁があれば」 「何か合図でも決めておく?」  李偉(リーウェイ)はうーんと言いながら空を見上げた。 「もし決めても、私が忘れてしまったら君に失礼だし、君も忘れていたら後で気に病むだろう。でも、もし思い出したら、義兄弟の盃を交わした酒を飲もうと、君を誘うよ」 「ああ、それいいね! 君と王芳(ワンファン)は結婚したから、私達は本当に義兄弟になったんだし」  李偉(リーウェイ)は笑って頷いた。 「王偉(ワンウェイ)、また会おう」 「うん。また」  李偉(リーウェイ)は「じゃ」と言って生前と同じように歩いて霊園から去っていった。  その後、王偉(ワンウェイ)はずっと開封しないままの地酒を持ち続けたが、開ける機会は訪れなかった。  王偉(ワンウェイ)が二度の人生を終え、三度目に前世の記憶を呼び覚ました時、初級中学の女子学生だった。 「李偉(リーウェイ)、今頃どこにいるかな」  今世ではかなり遠くの土地に生まれ変わった。前世の街は名前が変わってしまったので、確認しに行かないと妄想か現実なのか確証が持てない。今世では菊祭りが有名な観光地らしい。  その年の秋、王偉(ワンウェイ)は高級中学校に進学して、ある女子学生と出会った。  王偉(ワンウェイ)は一目見るなり、強く惹かれた。  懐かしい感覚がする。  その子は王偉(ワンウェイ)の隣の席にきた。  初めて会ったのに、ただ胸がいっぱいになる。懐かしい、会いたかったよって。  でも、初対面だから驚かせたくなくて、必死で平静を保った。人違いだったり勘違いだったら申し訳ない。あと、記憶がなかったら怖がらせてしまうだろうから。  休み時間に王偉(ワンウェイ)は新しいクラスメイトと共にその子と沢山会話した。  王偉(ワンウェイ)は放課後、思い切って「ねぇ、(ユアン)という街を知ってる?」とその子に聞いてみた。 「うん。今、南陽(ナンヤン)という都市だよね?」  知ってるんだ、と分かって王偉(ワンウェイ)は胸が高鳴った。 「あ、あのね、もし……」  ここまで言って、変な子だと思われたらどうしようと、怖気づく気持ちが湧いてきた。 「良かったら今度、私とお酒を飲まない?」 「未成年はお酒を買えないよ」  冷静に諭されて王偉(ワンウェイ)はうなだれた。お正月やお祝いの日でなければ、今の家庭でも飲酒することはほとんどない。未成年だし女性でもあるし。  しょんぼりした王偉(ワンウェイ)に相手は微笑んだ。 「せっかく女の子で生まれたのに、そっちも女の子なんだ」  王偉(ワンウェイ)はパッと顔を上げた。 「また会えたね」  そう言って、李偉(リーウェイ)王偉(ワンウェイ)の手をそっと握った。 「約束のお酒は、成人してから一緒に飲もう。私、語り合いたいこと沢山あるんだ」  王偉(ワンウェイ)は嬉しくなって李偉(リーウェイ)の両手をぎゅうっと握った。 「私も!」  ここでも二人は生涯親友として過ごしたという。 (了)
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!