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【第2話】誰でも良い訳ではないんだよ?
「何かニヤニヤしてる」
「へ?」
太陽が、自分の席で昼食を食べようと思い。二段重ねの弁当箱を鞄から取り出した、ちょうどその時、愛梨が太陽の前の席に座りながら指摘をした。
「別にニヤニヤなんかしてねぇんだけど?」
「してるよ。目尻に皺が出来て、口角も凄く上がってた。その顔をニヤけてると言わずして何をニヤけてると言えるのさ」
「いや……それは知らねぇけど。え、マジで? オレ、ニヤけてた?」
「うん、めちゃくちゃニヤけてた」
満面の笑みで愛梨はそう言い放った。
(うそくせー……)
「あ、嘘じゃないもん。疑ってるなぁー」
「だから息を吐くように他人の心を読むんじゃないよ。まったく……これだから、読心能力者は……」
溜息を吐きながら、太陽は弁当箱の風呂敷を解く。
「あっ!」そして弁当箱の中身を見た時、太陽は驚愕の事実を知る事になる。
「べ、弁当が……」
「ん?」
「二段とも……白飯だけだ……」
「あらまぁ」
普通二段重ねの弁当なら、片方の弁当箱には白飯、もう片方の弁当箱にはおかずが入っているものだ。
しかし、太陽の目の前にある弁当箱の中には、双方共に白飯しか入っていなかったのだ。
つまり――
「おかずが、ねぇ……!」
成長期である健全な高校二年生にとって、これは由々しき事態である。
大ピンチと言っても過言ではない。
「ど、どんまい」
「どっちだ?」
「え?」
「皐月姉の天然が発動したのか、はたまた月夜の悪戯か……どっちなんだ……」
「う、うーんと……私は、前者を押すけれど……」
「だよなぁ……オレもそう思う。はぁ……新学期初日からコレか……勘弁してくれ……」
さっき迄のニヤニヤが一転、悲しそうに項垂れる太陽。
そんな彼の姿を見て「仕方ないなぁ」と言いながら、愛梨は自分の弁当箱を太陽に見せる。
「ほら、好きなの取って良いわよ」
「え? 良いのか?」
「どうぞ……私、あんまり食べなくても大丈夫だから」
「うわぁ! マジか! ありがとう白金! 恩に着る!」
「……! はいはい……どうぞどうぞ」
「じゃあ、お言葉に甘えて、コレとコレと……コレ」
満面の笑みで、太陽は愛梨のおかずを次々と摘んで自分の弁当箱の中へと放り込む。
そして選び切った所で、「いただきます!」と口に運んだ。
「美味い! これ、白金が作ったんだろ!?」
「そうだけど?」
「めっちゃ美味い! すげぇな!」
「……どうも」
少し、顔を赤らめる白金。
「ん? どうしたんだ? そんなにニヤニヤして」
「……何でもないわ。気にしないで食べて」
「? そっか」
気にせず、太陽は次々と白金が作ったおかずを口に運んでいく。
白金は言う。
「ねぇ、太陽くん」
「ん?」
「さっき、何でニヤニヤしていたの?」
「いや、だから……オレそんなニヤニヤしてた?」
「してた」
白金は続ける。
「その理由、当ててあげようか?」
「へ?」
「今年も……私と一緒のクラスになれた事が嬉しくて、ニヤニヤしてたんでしょ?」
「ぶっ!!」
危うく、口に含んでいた食物を吹き出しそうになった太陽。
「な、何故そうなる!?」
「そうなのかなぁ……って、思ってさ。……違うの?」
「違うっつーの! 全然違う!」
「あはは、反論に必死ね。面白い」
「白金ぇ……!」
「あははは!」
しかめっ面の太陽。その隣で笑っている愛梨。
これがこの二人のスタンダードである。
いつもの光景なのである。
「そんなに否定しなくても良いのに。そう思ってくれるのは、嬉しい事なんだよ?」
「…………!!」
「あ、否定して来ないって事は、本当にそう思ってくれてるんだ。嬉しいな」
「…………はぁ……お前って、本当に呼吸するかの如く人の心読むよなぁ……」
「趣味だからね」
「人の心を覗き見るのを趣味とか言うな!!」
「えー、でもぉ、Hな動画を見るのが趣味な太陽くんに、趣味の事をとやかく言われたくないなぁ」
「なん……だと?」
「例えばぁ……」
愛梨は、手馴れた手つきでスマホを操作する。そして、とある画面を太陽へ見せつけた。
「コレ、とか?」
「っ!? そ、それは!!」
その画面に表示されている動画は、紛れもなく、昨晩太陽がオカズにしたHな動画だった。
「えーっとぉ、何々……タイトルは……妹女子〇生夜の――」
「うわぁぁああ!! 分かった! 分かったから!! タイトル読むのだけは勘弁してくれ!! 恥ずかしいから!! 頼む! この通りだ!!」
「えー、どうしよっかなぁー」
「白金ぇ!!」
「あははは!」
ここで一段落。
生きた心地がしない、といった表情の太陽。
「お前……本当に性格悪いな……」
「あはは! 確かに、太陽くんの前ではそうかもねー」
「……オレ限定かよ」
白金は、ふっと笑った。
「あのね? 私さ、ポンポンポンポン太陽くんの心読みまくってるけどさ……」
「ポンポンポンポン読まないでくれるか?」
「フフっ、けどね? 私が、そんな風にするのって、太陽くんだけなんだよ?」
「え……」
「誰でも良い訳ではないんだよ?」
瞬きを忘れてしまう太陽。
「白金……それって……」
ここで愛梨はニヤッと笑った。
そして大きく息を吸い込む仕草を見せる。
「ん?」
太陽は眉間に皺を寄せた。
次の瞬間、白金が大声を放つ。
クラス全体に聞こえそうな、大声で。
「えぇ!? 昨日太陽くん、こんな動画見てたの!? タイトルは――」
「うわぁぁあ!! 白金! やめてくれぇ!!」
もう一度言うが、慌てふためく太陽と、ケラケラと笑みを浮かべている愛梨。
これが、日常へと戻った二人の……。
いつもの光景、なのである。
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