16.心

2/7
119人が本棚に入れています
本棚に追加
/97ページ
 思いもよらないその言葉に、ミーアは何度も瞬きを繰り返す。リオンはそんな彼女を見て一瞬ぐっと唇を嚙むと、その手をとって握りしめた。 「もちろん、無責任に放り出すという意味ではないよ。王都の隣、お父上の生まれ故郷にミーアたちがこれから住む家を準備した。生活に必要なものはこれから用意するから、一刻も早くそちらに身を寄せてほしい」 「え、あ、あの……話が、よく」 「急な話ですまない。だが昨夜話したように、きみが私の妻としてこの城にいることを快く思わない者がいる。その者が存在する限り、ミーアに危害が及ぶ可能性が高い……それだけは何としてでも避けたいんだ」  ミーアはまだ混乱しつつも、昨日リオンに届いたという脅迫状めいた手紙の内容を思い出す。「今すぐ離縁しなければ城の者を皆殺しにする」という残酷なその脅しは、ミーアがリオンの妻であることに対する抗議なのだろう。  しかし、ミーアがこの城に来て既に半年以上が経っている。なぜ今頃になってそんな脅迫状が届いたのか、なぜその者は離縁を望んでいるのかすらも分からない。そんな状況で彼女の身を守るためには、ソルズ城から離れるほかに方法はないとリオンは考えているようだった。 「ミーアとお父上が城を出ても、しばらくは警護を続けるつもりだ。賊の目的は分からないが、もしかしたらきみをまた狙ってくるかもしれない……だが、警護を付けると言っても生活の一部始終を監視するようなことはしないから、どうか安心してほしい」 「で、ですが、そんな危険な状況で殿下はどうされるのですか? それに、その……お世継ぎのことなどは」 「私なら大丈夫だ。世継ぎに関しても、ミーアはもう何も心配しなくていい。――きみを縛りつけるのは、もう終わりにしたいんだ」
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!