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トガミがその瞳にミーアを映す。ミーアがそっと傍に近寄ると、彼は辛そうに目を伏せた。
「ミーア、様……数々の非道な仕打ち、心からお詫びします。僕は、きっと……僕と同じ辺境の地に生まれながらも、決して理不尽に屈することのないあなたを、心のどこかでは、妬ましく思っていたんでしょうねえ……」
「……トガミさん」
「リオン殿下のこと、どうかよろしく頼みますよ……あなたになら、任せられます」
焦点の合わない目をして途切れ途切れにそう言ったトガミを、ミーアはただ黙って見つめることしかできなかった。
トガミはそんなミーアを見て小さく頷くと、最期の力を振り絞るかのようにゆっくりと首を動かした。そして今度は、リオンに向かって掠れた声で呟く。
「自分の命よりも、大切にしたいものがあるっていうのも……悪くは、ないでしょう?」
「え……」
「リオン、殿下……そのお気持ちを、どうか、忘れないでくださいよ」
懸命に言葉を紡いだトガミに、リオンは無言で頷いた。
その姿を見たトガミはほっとしたように表情を緩め、ふと息をつく。そして、穏やかに微笑んでから震える唇を開いた。
「あちらの世界で、願っています。……この国に生きる皆に、光が差すように、と……」
それだけを言い残し、トガミの目はすっと閉じられる。そして、もう二度と開くことはなかった。
今にも消え入りそうなか細い声ながらも、彼の言葉は今まで聞いたどんなものよりも重く力強いものだった。
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