131人が本棚に入れています
本棚に追加
たったひとり、というその言葉に、リオンは辛そうに目を伏せた。
「……デレクの進言を聞かずに城から追いやったこと、父上に代わり私が謝罪する。本当に、すまなかった……」
「はは……やだなあ。リオン殿下は何もしていないでしょう。それにね、僕がデレクのことを打ち明けられたのも……今こうして呑気に笑っていられるのも、あなたのおかげなんですよ」
リオンが静かに目を見開く。トガミはそんなリオンの金色の瞳を見つめ、口元を緩めた。
「あなたなら、デレクの願いを、きっと叶えてくれる……いえ、きっと、リオン殿下にしかできないんです。この手を血で汚した僕なんかより、ね」
血に濡れた己の手を握りしめ、トガミが声を振り絞る。
彼はこの計画を実行するなかで、きっと数々の犠牲を払ってきたのだろう。中庭でミーアとリオンを襲い、そのまま自害していった女の事切れた姿を思い出してミーアは俯いた。
「人を救いたいという願いのために、人を殺す……僕はいつの間にか、そんな矛盾を抱えてしまっていた。デレクは、こんなことを望んでいたわけではないと、頭では分かっていても、止まることができなかった……自分が本当にすべきことは何なのか、それに向き合うことができなかったんです」
ここまでトガミを突き動かしていたのは、きっとデレクを追放したソルズ王に対する復讐心だったのだろう。
凍て付きそうなほど冷たい眼差しでミーアの暗殺を指示していたはずのトガミが、今は迷子になった子どものように小さく震えながら自分の胸中を吐き出している。
「近頃のあなたを見ていると……腹立たしさと同時に、安心感のようなものも感じていました。リオン殿下なら……っ、この国を、正しい方向へ……デレクの思い描いた通りの国へ、導いてくれるのではないかと」
「っ……、ああ。そんな希望に満ちた国に、必ずしてみせる。私も今までの過ちを悔い、それでも成し遂げると決めたんだ。だから、おまえも……!」
「はは……っ、本当に、お人よしですねえ。僕は、いずれあなたも殺すつもりだったんですよ。こんな男に情けをかけていては、王なんて務まらないんじゃないですか、……っ」
湿った咳とともにトガミが再び血を吐き出した。痛々しいその姿を、リオンは今にも泣きだしそうな面持ちでただ見守っている。
最初のコメントを投稿しよう!