「以前、私がきみに言ったことを覚えているか? そんなに苦しいのなら、心など捨ててしまえばいいと」
こくりと、静かにミーアは頷く。つい先ほども思い出して、胸を締め付けられた言葉だ。
目に涙を溜めながら黙りこくるミーアを見つめ、リオンはゆっくりと口を開いて言う。
「でも、今は――きみの、その心が欲しい。心が手に入らないのなら、他には何もいらない」
その言葉とともに、リオンは再びミーアの体をきつく抱きしめた。
彼の腕はかすかに震えていて、まるで今生の別れを惜しむかのように痛いほど強く彼女を包み込む。その力強さが彼の思いを表しているように思えて、ミーアの胸に熱いものがこみ上げてくるのが分かった。
思わず彼の名を口に出そうとしたその時、部屋の外から声がかかる。おそらく、いつもリオンに付き従っている護衛の声だ。
「リオン殿下、失礼します。ミーア様のご準備はお済みでしょうか? お父上様はいつでも出立することができるようですが」
「……分かった。すまないが、ミーアの準備を手伝ってほしい。私はこれから、陛下へご報告に上がる」
「かしこまりました。それでは、侍女を二、三人呼んで参ります」
どうやら、父の方はすでにこの城を出る準備が整っているらしい。
すぐに荷物をまとめられるような心境ではないミーアをよそにリオンは話を進め、きつく抱きしめていた腕の力を緩めてしまう。そして、戸惑うミーアに目線を合わせて穏やかな声音で囁いた。
「どうか幸せに。……愛しているよ、ミーア」
――どうして、今さら。
そう彼に問う代わりに、ミーアの頬に一筋の涙が伝っていく。
それを見たリオンは一瞬何かを堪えるようにぐっと唇を引き結んだが、すぐに身を翻して部屋を後にする。一人残されたミーアは、呆然とその場に立ち尽くすことしかできなかった。
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