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彼がすくっと立ち上がった。
山程の荷物を抱えてあるき出したところで、一度立ち止まってこちらを振りむいた。
「あ、ちょっとグレープジュースが残っちゃったから、あげる。手荷物検査のときに没収されちゃうからさ。」
「ん」
言いたいことなんていっぱいあるのに。
少しでも声を出せば、泣きかけているのがバレそうで、声が震えているのがバレそうで、何も言葉にできなかった。
「またね!」
「バイバイ…」
歯の隙間から絞り出すように声を出した。
唇を噛んで、下がりそうな口角を必死になって抑える。
ここで泣いたら、彼の夢を応援していないかのように見えてしまうではないか。
だめだ。そんな風に思われたくない。
「アメリカでのお仕事、応援してるからね」
「うん、ありがと!」
最後まで、いい彼女でいたいんだ。
「じゃ」
「ん」
彼は何の躊躇いもなくゲートへの列へと並びに行ってしまった。
最後の最後の見えなくなるところまで見送っても良かったけれど、私はもう涙をこらえきれなかった。
一生のお別れなのだ、きっと。
もう二度と会えることなどこないだろう。ずっと前から覚悟していたけれど、悲しいものは悲しかった。
もう涙は流しきったと思っていたけれど、そんなことはなかった。
「彼」ではなくなってしまうことが辛かった。
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