いつかその日まで

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君からもらったばかりのグレープジュースが冷たい。日本で最後の飲み物はお茶ではなく、いつも君が飲んでいた、”ふる!ゼリーぐれーぷじゅーす🍇”とかいう子供向けの飲み物だということが、なんだか君らしかった。 さっきまで君と一緒に座っていたソファの前を横ぎった。このごくごく普通のソファが、「君と最後に座ったソファ」に認定されるのだ。普通のソファなのに。こんな名前、どのソファにも一生つけたくなかった。 冷たい風が、頬にあたる。 周りの人々の声は、暗くどんよりしていた。 空港で光る明かりは、冷めた色をしていた。 最期まで一緒にいたかった。 これからも一番そばで、絶妙にセンスの悪い服を得意げに着ているお茶目な君をずっとずっと眺めていたかった。 叶わないんだ。不可能なんだ。 8500km以上も離れている土地で、愛を育むことなんて非現実的だ。 それに、彼の将来のためにも、私なんかと付き合い続けてもなにもいいことがない。 アメリカには、もっと可愛い人だっていっぱいいるだろうし。英語が話せる君のことだから、超美人なアメリカ人一人くらい簡単に落とせるだろう。 私は自分の夢を諦めて君を取るべきだったのかもしれない。 アメリカについていってみたい、って言ってみたらなにか違ったかもしれない。 でも、私はできなかった。 きっと私は君にふさわしくない。 今まで、ありがとう。 手で拭っても拭っても、涙は溢れ出てきて止まらなかった――
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