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「あはは、コレを初めて見た人はみんな同じ反応をしますね。警察に通報されて大騒ぎになったこともありますよ。よく見てください、これはただの作り物です」
青年は正面にある白髪の男性の首を指し示した。
「睫毛に接着剤の痕跡があるでしょう。ほら、液体が固まって光っている。左側のこめかみに小さな陥没があるのが見えますか。落としたときに瑕がついてしまったんです」
巧みな照明によって「瑕」は見つけられなかったが「ほんとうですね」と適当に相槌を打った。
「これは二十年ほど前に流行った首人形(コルルム)です。死んだ人間そっくりの首を造って手元に置いておくんだそうです。いわゆるグリーフケアの一種ですね」
「なるほど……。コルルムというんですね、知りませんでした」
当時は祖父が趣味で造ったと思っていたが、流行として認知されていたものだと知ってどこか安堵した。この白髪男の首もどこかのだれかが造ったものなのだ。
「失礼ながらこんなものに骨董的価値があるんですか?」
「ふふ、ほんとうに失礼ですね」
青年はおかしそうに笑った。
「申し訳ありません、つい好奇心で」
「いえ、よく聞かれるのです。こんなところにあれば尚更。……骨董的価値ですか、難しい質問ですね。他人にはガラクタにしか見えないものも本人にとってはウン百万でも足りないほどの価値を見出すこともある。少なくともここにあるものは私が価値を見出して買い求めたものです」
「この冴えない男の首も、ですか?」
「もちろん」
理解できないと思う反面、ばあちゃんの首を大切にしていたじいちゃんの姿を思い出して「そういうものか」とも思う。
「意外に思われるかもしれませんがこれでも需要があるんですよ。魔除けとして玄関や窓に置いたり、中に照明器具を入れて明かり採りにしたり、メイクや化粧品の練習に使ったり、愛玩人形のようにおめかしさせたり、部屋のインテリアとして飾ったり。そうそう、夏のお化け屋敷では引っ張りだこですね。レンタルもしていますが壊されることが多いのであまり気が向かないですが」
「はぁ」
思ってもみない用途があるのだ。
作り物の人形。そう思えばなんということはない。恐怖は薄れ、単なる物にしか見えなくなる。
「ヒロタさん、首人形に興味がおありで?」
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