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『ん、、』
「あっ起きたか?」
翌日祖母の家から飛行機で戻った麻比呂と母親は空港に車で迎えに来た父親と合流した。空港から千葉の家までそこそこ距離をいつの間にか寝入ってしまった麻比呂はまたいつもの夢を見た。
「香川どうだったか?」
運転席も父親がルームミラーから後部座席の寝ぼけ顔の麻比呂に問いかける。毎年3人で行く祖母の家に今年はお店を閉められないと父親一人留守番だった。
『どうって別にいつもと一緒だけど』
「おばあちゃん元気だったか?お小遣いもらえたか?」
『それ毎年言ってんじゃん』
「そうよ、パパ!麻比呂いくつだと思ってんの?」
「うーんと20、いや21だっけか?」
『22。いい加減息子の年齢くらい覚えたら?』
ちょっとレトロな車高の高い父親こだわりの赤い4WDの車は市街地を抜けて行く。ここ数日見ない間にパラパラと人が増えてきたなと麻比呂は窓を全開にして顔を少し出した。
"須野海岸 先一キロ"と書かれたカラフルな看板を通り過ぎると育った町がもうすぐだ。半袖、半パン、サンダル姿で歩く人達が目立つ様になり海岸付近を走行している気配を感じられずにいられない。
「おー!東くん!!」
父親が車内から声を上げて窓から手を上げた先に麻比呂も視線を向けると歩道からこちらに向かってくる一人の男性。
車のスピードを落として男性に近づくと焼けた肌と引き締まった身体の男は止まって車内をグルっと見回した。
「あーこんにちは!お揃いで。もしかしてアレに行って戻ってきたところです?」
「そうそう。今空港に迎えに行ってきたところだよ。東くんは?」
「俺は海岸の組合本部へ。海開きまで一週間なんで何かと準備でバタバタで」
焼けた肌と真逆の白い歯を見せて爽やかに答える男の事はよく知っている。そしてまた夏が来たと訪れを知らせてくれるような存在。
「それはご苦労だね。いやぁ今年もこの時期が来たか〜須野の安全を頼むよキャプテン!こっちもうまいもん用意して待ってるから店来てよ」
「えぇ。また寄らせてもらいますよ。それじゃ、麻比呂くんもまたね」
後部座席の窓に手を振ってスタスタと歩いて行った。
「キャプテンは相変わらず男前だなー俺の若いとそっくりだな!」
『、、そんな腹しといてよく言うよ』
「あら?昔はパパも腹筋割れて女の子たちにモテモテだったのよ」
「そうだぞ。ママが心配になるくらいモテてな困ったもんだよ〜だけど!ママ一筋だったから、誘いも全て断ってな」
「もうパパったら!」
いつもの夫婦漫才のようなやりとりが始まりうんざりした顔で背もたれに頭を預けた麻比呂。
若くして結婚した二人は20年以上過ぎても付き合いたての恋人のようにラブラブだ。
そして走らせた車は海岸を走り窓から生温い風が麻比呂のウェーブした髪を揺らす。
晴天の雲一つない青空と海の色が相まって完全にブルーと化した須野海岸に今年も夏が来る。
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