運命の黒い傘

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 そもそもまた会えるという保証もないのに、次はいつ会えるだろうかと心待ちにする日々を過ごしていたが、意外とその時は早く来た。 「こんにちは。また会えたね」  学校帰りに最寄駅のカフェで新作のフラペチーノを飲んでいると、突然声をかけられた。顔を上げるとそこには、推しのソジュンに似た顔があった。  あの日のサラリーマンだ。 「えーっ! お久しぶりです! あの、この間はありがとうございました」 「いやいや、力になれたのなら何よりです」  お礼を言ってから、ふとここが前回会った場所とは違うことを思い出す。前回は家の最寄駅で、今日は学校の最寄駅のカフェだ。 「なんでここに!? 会社、近いんですか?」 「そう、会社がすぐそこで。ここにはよく来るんです。そちらは、学校が近いんですか?」 「はい! 学校の帰りにたまに寄るんです。……あ、これ、お借りした傘です!」  そう言って勢いよく傘を差し出すと、彼は目を丸くして驚いた。 「え、持ち歩いてたの?」 「いつでも返せるようにと思って……」   「わざわざありがとう。あげるつもりで渡してたのですが……それにしても、また会えるだなんて、思ってませんでした。持ち歩いてたということは、また会えると思ってくれてたのかな」  そんなふうににっこりと笑われると、ドキッとしてしまう。私がどぎまぎして返答に困っていると、ふと彼は私の手元に目をやった。 「あ、それ。今日からの新作ですよね」  私の持っているカップを指差して言う。そう、今日はこれのためにわざわざ発売日を狙って来たのだ。 「そうです! あれ、もしかして……」  彼の手元を見ると、同じものがあった。家が近くてたまたま出会い、学校と会社も近くてこれまた偶然出会い、好きなものまで同じ、と思ったら、なんだか尚更運命を感じてしまう。 「やっぱり発売日に飲みたくなっちゃいますよね! 今回の新作もおいしかったですね」 「はい、甘すぎず程良い酸味もあっておいしかったです」  まさか彼もこのカフェが好きだなんて。先程、SNSにカフェの写真を載せたばかりだったが、これはあとで彼のことも書かないといけないなと、浮かれている自分がいた。 『いつものスタパでまさかの黒い傘のあの人と再会!私と同じで新作発売日狙って来たらしい〜偶然めっちゃ重なる!』  その日寝る前に追記で投稿した文章には、タカノはじめ友人たちから次々と「いいね」がついた。一人だけ知らない人からも通知が来ていて、シンプルに「おいしかったですね!」とコメントが書いてある。  SNSはやってはいるが、顔写真を載せるのは怖いので、顔は写さずカフェの写真などを載せるようにしている。ほとんど友人向けだが公開アカウントなので稀にこうして知り合いでない人からも「いいね」が来た。この人も発売日を狙った同志だろうか。 『おいしかったですね!次の新作も楽しみです』  そう返事をして、眠りについた。
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