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ここはどこ?
程よい揺れ心地、フードが開けられた天井、好みの音楽大音量。
と、急停車。勢い、希子は座席から滑るようにダッシュボードに激突、転落。シートベルト、していなかったんだっけ?
この色合い。細やかな配置。カップボードに張り付けた小物など。
希子の愛車とそっくりな内装だ。
『急ブレーキ発生デス。昨日も3回、おとといは2回、更に先月は――先々月は、前年は――。スピード15キロオーバー、昨日は20~40キロ、おとといは、――その前は――。違反履歴、黄色い線のはみ出し先月2回、昨年3回、発車のフライング6回、5回――』
電子音が長々としゃべっている。
「あ~もううるさいな。過去の過ちまで延々遡りやがって」
カーナビに叫び返しているのは白髪の女性。
「あのう……?」
希子は何とか座席の上に這い上がり、運転している女性の横顔を見た。
「ああやっと起きた? ったく、どっから来たのよ、あなた」
「……どこに来たんでしょ、私」
彼女の肩がすくめられ、左手が前方の案内表示板を指さす。フロントガラス越しに見えるそれには、行き先方面の都市名が記されている……はずだけど。
「そんなことないしろくじぼったくりんりん市……?」
「損内市、子戸奈井市、白黒次市に慕蔦市、九倫市と輪同市が30年かけて合併してね。そんな名前になったわけ」
「うそ……私住んでるの、慕蔦市――」
「ならあんた、30年タイムスリップしたのねえ!」
あはははは! と2人同時に爆笑した。が、ハタ、と希子の頬が引きつった。まったく同じタイミングの、同じ笑い方。
「……今、西暦何年ですか?」
「2053年でしょ」
また座席から落っこちそうになった。
このお婆ちゃんの言うこと、まんざらジョークじゃなさそうだぞ――。
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