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「……物事って、一発でガッと食い込んでくる方がいいわよね?」
「それは年寄りの感覚。若者と一言で通じる共通語なんて、もはや存在しないのよ」
そうなのか。
「親切なのはありがたいけど、世の中一体何でこうなった?」
「何でもね。何十年か前、『親切マインド』を強く押し出したモラルがどっかの会社で大絶賛されたらしいの。そこから広まった懇切丁寧論が、妙にズレてったのね……」
それあんただよ! 忘れてるみたいだけど。
はい、私です……
「暮らしにくい世の中になったよね」
未来希子がため息交じりにつぶやいた。
希子もげっそりしながらその後をついて行きしな、さっきのポップが目に入る。ビタミンだの、水に浮いたら食すな、だの、コケコちゃんだとかが延々書き綴られたあの。
卵――
希子がよかれと思って放った親切マインドのたまご。それがこんな風に育ってしまっているとは。ショックも甚だしい。
この未来のどこかにいるはずの夫を探そう。それでトースターで過去に戻してもらおう。で、あの社長賞の企画、修正しよ……。
頭の中で赤ペンを忙しく走らせる希子だったが。親切心が極端な方向へ行かないよう、あっちこっちに注釈をつけては直し、直しては付け加え。
――と、どんどん長ったらしくなっていくのだった。
(完)
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