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街道の茶屋
「あの茶屋で少し休むことにしよう」
島木正信は、隣を歩いていた西 惟親に声をかけて、後ろにいた妹のゆりを見た。去川の関所から三里(約十二キロ)ほど歩いたところだった。
三人は笠を手に持って店の中へ入った。正信が長椅子に腰をおろすと、左右に惟親とゆりも腰をおろした。
「団子と茶を三つ」と正信は、茶屋の主人に声をかけた。正信に続けて、店の外からも注文する声が聞こえてきた。結構繁盛している店のようだ。
高鍋の家を出て、今日で三日目。まだ先は長い。なあに、急ぐことはない。そう思いながら、正信は手拭いで額の汗を拭いた。
しばらくすると、「どうぞ」と言いながら、主人が茶と団子を盆にのせて持ってきた。正信たちの前の台に置きながら、「で……旦那さん、どげんでした?」と声をかけてきた。
「あ〜関所か。難儀したぞ。なかなか通してくれんかった。許しが出た頃には日が暮れとったので、夜は宿の世話になったぞ。」
「いやいや、関所じゃのうて、ほれ、アレ、アレ……」
そう言いながら、初老の主人は外の方を指差している。
「はて? 何のことかな?」 正信が、尋ねると主人は得意げに話し始めた。
その日、夜が明ける前あたり、おそらく丑三つ時(午前二時から二時半)に、星が落ちてきたと言うのである。しかも、続けて二つ落ちたらしい。音を立てずに、夜空を昼間のように明るく照らしながら落ちてきたと言う。
「いや、疲れて寝ていたので、外で天を見上げることもなかった……なあ、ゆり?」
「ええ、全く気づきませんでした」と妹のゆりは答えた。惟親は関心がないのか、他の方を向いて団子を食べていた。
そのやりとりに耳をそばだてながら、茶をすする二人組の侍と、四人組の商人が茶屋の店先にいた。
「そろそろ」と言いながら、正信は立ち上がりながら、ゆりと惟親に声をかけた。正信が代金を払う間、二人は笠を被った。三人は揃って茶屋を後にした。
しばらく歩いたところで、大きな池が見えてきた。
「話によると、この辺りに落ちたらしいが……」とつぶやきながら、正信は立ち止まって池のほとりに進んだ。その直後、「あっ!」というゆりの声が聞こえて、正信は振り返った。これまで歩いてきた道が深い霧に囲まれていた。
「このあたりは霧が深いと聞くが……これは、なんと!?」
先ほどまで晴れ渡っていたはずだと思いながら、正信は二人の近くに歩み寄った。
「兄さま!」と再びゆりは池を指差しながら声をあげた。正信が振り返ると、池の辺りにまで霧がかかっていたのである。
「先が見えぬ……これは困ったな」
そう言いながら、正信は道を進もうとしたが、足を止めた。
その先には数人の人影があった。通りを塞ぐように、無言で立っていたのである。
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