サバイバルゲーム

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サバイバルゲーム

 「ええっと……そうだね、杉矢さんたちは、大池のこのあたりの茂みに隠れて、待ち伏せしてください」  リーダーの直木が地図に赤で印をつけて、姉の杉矢 千春(すぎや ちはる)に手渡した。  「お姉ちゃん、どこ?」  横から弟の杉矢 翔太(すぎや しょうた)が地図を覗き込んできた。  「ここ、ここだよ」  弟は自分より二〇センチ近くも背が高いが、八歳年下とあって、まだまだ可愛いところがある。ただ、この日千春はご機嫌斜めだった。  もともと恋人の隆が誘ったサバイバルゲームなのに、前日の夜になって、本人が仕事で遅れると電話で言ってきた。そのやり取りを聞いていた弟の翔太が直ぐに食いついてきた。  「僕、代わりにやるよ!」  「翔太君、頼んだよ!」  隆は自分の代役を翔太に押し付けて、早々に電話を切ったのだった。  当日の朝、千春の運転で二人は開店間もないホームセンターに行った。そこで、汚れても良いように安物の黒のトレーナー、ジャージ、目出し帽を翔太に買ってあげて、コンビニでランチを買い、そのまま会場の霧林公園に向かったのである。モデルガンやゴーグルなどの装備から、バイオBB弾まで全て隆のものだった。  二人は直木から言われた通り、待ち伏せのために茂みに隠れた。その先に置かれたポリタンクを奪いに敵チームが攻めてくる。そこを隠れた場所から狙い撃ちにするのが千春と翔太の役目である。  「あ〜あ、退屈だなあ……思ってたのと違うよ」と翔太が愚痴をこぼした。  「ほらほら、こっち向いて」  千春は翔太の顔にフェイスマスクをつけて! あと1分で始まるよ」  千春は翔太にフェイスマスクを渡して、腕時計を見ながら言った。と、その時である。自分の腕が徐々に歪んで見え始めたのである。隣にいる翔太の姿も、周りの景色も歪んで見え始めた。翔太も驚いた顔をしている。翔太に声をかけようとしたが、声が出ない。  次の瞬間、ドーンという大きな音がした。大池の方だった。  ———ん? 霧?———  千春は驚いて、音がした方を見た。さっきまで晴れていた空が、どんよりと曇り始めて、大池の辺りに霧が漂い始めていた。あっという間に自分達の周りも霧に囲まれ始めていた。  大池に船のようなものが浮かんでいるのが見える。形ははっきりしない。黒っぽい影のようにしか見えない。しばらくすると、向きを変えて、千春たちの方へ進んで来た!  ———あっ!———  千春は声を出したつもりだったが、何も聞こえなかった。翔太が自分に向かって何か言っていたのに何も聞こえない。  次の瞬間、目を開けることができないほど、辺りが眩しく照らされ始めた。再びドーンと音がして、千春は気を失った。
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