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覚醒
「う、う……」
先に目覚めたのは翔太だった。体は仰向けに寝た状態だった。両手でゴーグルをずらして、ゆっくりと目を開けてみた。空はどんよりと曇っていた。顔には煤がついていたのか、手のひらが黒く汚れた。ゴーグルも汚れていたので、指先で拭いて、再びかけてみた。
足腰を左右に動かしても痛みはなかったので、まずは腹ばいになって辺りを見回した。霧が立ち込めていたのでよく見えない。少し頭がふらついたので、しばらく動かないことにした。姉の千春は二メートルほど離れたところで仰向けに寝ている。まだ気を失っているようだ。
「おい!」
いきなり声をかけられて、翔太はビクッとした。体をこわばらせて、声がした方に視線を向けると、数メートル先で左右に向かい合う複数の人影が見えた。
「島木正信だな?」
———んっ? 僕じゃない?———
声をかけられたのは自分ではない。翔太は安堵した。喧嘩でも始まるのだろうか。草陰に隠れて様子を見ることにした。
「何の用だ?」
右側の男が問い返した。辺りには得体の知れない緊張感が漂い始めていた。
———何やってんだろう?———
翔太の鼓動は速くなった。ふらついていたことを忘れて、男たちの行動を注視した。
「助太刀いたそう」
すると、右奥から二つの人影が現れた。一人が小さな影の前に立ち、もう一人が前に歩み出た。
左側にいた二人が、「ええい!」と言いながら前に出た瞬間だった。前に歩み出た男が、まるで舞うように体を動かしながら、棒を振り回した。
———あれっ? 刀?———
二つの人影が倒れたとき、自分と千春の方に何かが飛び散って来たのを感じた。ゴーグルに付着したのは赤色をした液体だった。
———えっ! 血?———
驚いた翔太は自分の存在を悟られないように、静かに急いで、匍匐前進で千春の方へ向かった。
「姉ちゃん、起きて!」
翔太は千春の肩を軽く揺さぶって、起こそうとした。
「え? 何?」
「し! 静かにして!」
目を覚ますと、千春も顔に手を当てた。直ぐに、飛び散った血が顔についているのに気づいた。
「うわっ! 血! 血よ〜!」
千春は声を上げたのだった。
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