side アオイ

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「翔真、待っ……まっ、た」 「……むり、だよ………何ヵ月ぶりだと思ってるの」 「だから、って………と、とりあえず、ベッド!!」 俺の部屋に入るなりキスしてきた翔真を押し退け、俺はなんとかベッドにダイブした。 すぐにギシッと音を立てながら、翔真がベッドに上がってくる。 「……余裕なさそうだな」 「ないよ。……葵が、俺とふたりきりになりたいと思ってくれたことも、嬉しかったし……」 「……翔真」 俺は、上半身の服を脱いだ。翔真はそれを見て驚きながらも、自分も制服を脱ぎ始めた。 「………裸になるなんて、初めてじゃない?」 「かもな」 「………抜きあうだけでしょ?別に、最後までするわけじゃないのに」 「……そうだけど、抱き合いたかったんだ、お前と」 俺は、翔真の脱衣を手伝った。メガネが邪魔だったので、それいる?と聞いたら、取ってと言われた。 「見える?」 「うん、なんとかね」 「お前、ガリ勉だから視力落ちたんだろ」 「葵は、ゲームばっかりやってるのに、よく視力落ちないね、羨ましい」 うるせぇよ、と言って翔真のメガネを外しキスしてやった。 段々深くなる。声が押さえられなくて、頭に響く。 「………下、触ろうか」 「………お前も脱げよ」 「うん」 カチャカチャ音をたてながら、俺たちは全ての衣服を取り払う。 そしてベッドの上で、お互いを触りあった。 「………っ、翔真」 「…………葵、ごめん、」 「え……っ」 「俺、ちょっと……すぐ、イきそう」 その言葉が耳に届くとすぐ、翔真が「んっ」という甘い声を上げて俺の手のひらに吐き出した。そして、ポテッと、俺の肩に頭を埋めるようにする。 「……………翔真」 「はぁ………ごめん、ほんと………」 「最速記録……だな」 「うるさいよ、黙っててよ、バカ葵……」 恥ずかしいのか、なかなか翔真は顔を上げなかった。俺は、よしよしするように翔真の頭を撫でた。 「頑張ったもんな。色々我慢してさ」 「………葵」 「ん?」 「………まだ、終わりたくないんだけど」 これが最後は嫌だ、と悔しそうに翔真が言うので俺は笑ってしまった。 「いいよ。俺だってまだ終わらすつもりないって」 「………葵も、気持ちよくしたい」 「うん、わかった」 翔真が俺に触れる。優しく、激しく、泣きそうな顔をしながら。 お互いの肌が全部触れ合うことが、こんなに気持ちいいなんて。 別に最後までしなくても、繋がらなくても、いいんだ。だってこんなにも熱くて、……幸せだから。 俺と翔真は、母親たちから『今から帰るよ』というメッセージがくるまで、俺の部屋のベッドの上で、何度も肌を重ね合わせた。 ***** 桜も満開な、4月上旬。 翔真はもうすぐ、大学に入学する。 「ーーほんとに全部なくなったな」 俺は、3年間翔真が使った部屋を見渡しながらそう言った。 「父さん、仕事早すぎ。何人か友人連れてきてあっという間に荷物運ばれちゃったね」 「引っ越し業者なんてまったくいらんかったな」 「まあ、ひとり分の荷物だしね。俺の引っ越しはほとんど建前で、そのまま友人たちと出かけたみたい」 「へぇ」 当初の予定を少しだけ延ばして、翔真は春休みギリギリまで俺の家で過ごした。 入学式からは、実家に帰るという約束のもとで。 「翔真、大学楽しみだろ?」 「まあね。でも、医学部って結構スケジュール大変らしいから」 「まあ、だろうな」 「……葵に会える時間、大分減っちゃうね」 ぽつりと呟くように翔真がそう言った。俺は、そんな翔真の背中をバシッと叩く。 「家、近い方だろうが!俺も2年からは勉強に本腰入れるつもりだし、忙しいのはお互い様だ」 「そう、だね」 「大学生になったらーー、可愛くて優秀な彼女とか作るんだな。あ、彼氏でもいいけど。お前ならすぐ女も男も寄ってきそうだから。あ、でもちょっと前髪長すぎ。暗い奴に見えるかも、髪、染めたら?」 「……いや、俺は、いいよ」 「なにがいいんだよ。一度しかない大学生活だぜ、少しは弾けろ」 バシバシ背中を叩いていたら、翔真が「痛いよ」と言って俺の手首をつかんだ。 一瞬、部屋の中が静まり返る。 「…………ねぇ、葵」 「あぁ?」 「俺は、この3年間をなかったことにはしないから」 「………そうかよ」 「うん。葵がなかったことにしたとしても、俺は忘れない。だって、葵は、俺の初恋だから」 初恋。 まっすぐに、翔真は俺を見て、そう言った。 「………なんか、随分ピュアなセリフだな……」 「ピュアだよ、俺は。葵があんな場面見るから、なんかおかしなことになっただけだし」 「俺が悪いってのかよ!」 「許可なく部屋に入ってきたのは葵でしょ。普段そんなことなかったのに、大学合格して舞い上がって、調子乗って俺の部屋なんか入るから」 「……そ、それは悪かったと思ってる」 こいつ案外根に持つタイプなのか。 翔真は、くすっと笑って貴重品が入った小さな鞄を肩にかけた。 「まあ、でも、いいや。好きな人とあんなことできたから、俺って運いいのかも」 「………翔真。俺、ちゃんと考えたんだけど」 「うん……」 「俺は……お前と恋人になったりするつもりはないから」 「………そっか」 「でも、ずっとお前のことは気にしてるし、好きだ。なんかあったら頼ってくれていいし」 「……ふふ、わかった。ありがとう、葵」 「……おう」 「じゃあ、行くね。次に会うときはーーただの従兄弟ってことで」 翔真はそう言って、俺の額に数秒口づけて、離れた。 「………次に会うときまでには、俺は可愛い彼女、作るからな」 「ははっ、うん。頑張って」 「あ、お前、今、無理だろって思っただろ?」 「おもっ……………たかもね」 「このやろ、見てろよ」 ふたりで笑い合いながら、部屋を出た。 春。 別れと、始まりの季節。 俺と翔真の道も、またいつかどこかで、交わることがあるのかもしれない。
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