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一体どれぐらいの時が経ったのか……とっくに真夜中になっても、体はまるで重力の下敷きになった様に少しも動かない。
「大丈夫か?」
朧げな意識の中、低く優しい声が聞こえた。
「膨大な闇の魔力につられて来てみれば……かなり魔力を消耗している……もう大丈夫だ、安心しろ」
その声の主に抱えられ、私はなぜか安心する。
「あなた……だぁれ?」
人間の姿によく似た、それでも頭には羊にも似た角が黒々と生えたその男は、「アルヴェル」と短く答える。
「烏の濡羽色」という形容がよく似合う、そこらの女性達よりも艶やかな長髪の彼は、長い日差しの様な睫毛を揺らし、その奥にある情熱と冷静さを混ぜて閉じ込めた様な深い紫の瞳は私を慈悲深く捉えていた。
「君はここにいては危険だ。余の城についてくるといい」
まるで私をお姫様の様に軽々と抱き上げたアルヴェルは優しく微笑む。
「名前を聞いても良いかな……小さなレディ?」
「キーラ……です……。ねぇ、アルヴェルがわたしのかみさま?」
それが私と彼の出会い。
そしてその日から、アルヴェルはずっと私を1人のレディとして扱っている。
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