タイタス・アンドロニカス

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 こんな夢を見た。  豪華に飾られた教会の中央に据え置かれた棺に、私は閉じ込められていた。棺に一緒に埋められた花々と、その中に忍び込んだ眠り草の香りが頭を痺れさせ、私は夢と現実の狭間にいる。 「大いなる女神、それであって封印されし魔獣……我らの供物と引き換えにその姿を現せ!」  外の闇で鏡となった天井のガラスには、司祭のような皺だらけの老人が、長い司祭服の袖を振り乱して詔を捧げる様子が反射する。  その言葉に呼応するように、長く太い蝋燭の火が揺れるのを、私は只々眺めていた。 『……汝、我を虐し民の末裔よ……何が望みだ?』  谷底から這い上がるような、低く唸る乾いた声に、私は身を強張らせる。その声は今に至るまで聞いたことも無い悍ましさと狂気を孕み、憎しみに溺れ血に飢えていた。 「あぁ、尊大なる女神よ……供物に宿りて、我が前にその姿を現しめ給え」  そう叫んだ司祭の手には、長く大きな聖剣が握られていた。剣の切先から散りばめられた溢れんばかりの宝石は、色とりどりに乱反射して狙いを私に定める。  司祭が一歩、また一歩と近付くたび、私の心臓は音を早めて警鐘を鳴らす。 ──助けて!!  口の端を弓形に持ち上げた司祭は棺の上から聖剣を振り下ろすと、的確に私の心臓を貫く。  ドクリ……ドクリ……と打つ脈を吸い上げるような宝石達は、恐ろしいほど爛々と私を見下ろす。 『よかろう』  息が出来ない。  声が出せない。  体が動かない。  嬉々とした歓声に包まれる聴覚には、私の鼓動が一番煩く泣いている。  そして意識は遠のいた。私の目が最後に捉えた視界は、終始揺れている蝋燭の火に注がれる。  その細く心許ない業火は、暗闇に呑まれるように白く煙を上げて消え去った。
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