タイタス・アンドロニカス

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 次に私が目を開いた時、そこは暗闇だった。  こびり付いた血と腐ったような悪臭が漂う中、あの低く恐ろしい声がする。 「貴様、名前は?」  目の前に立てた指すら見えない闇の中で、ソレは私の名を尋ねる。 「……キーラ」  私は声が震えるのを必死に抑え、深呼吸をしてから答えた。 「歳は?」 「14」 「やれやれ……まだ子供じゃないか」  ずるり……と何かが地面を這う音を立てて、私のすぐ側に寄る。一段と血生臭いソレは、シューシューと威嚇する蛇の吐息を携えて笑う。 「キーラ、貴様はどうしたい?」 「どうって、何が?」 「貴様は我の為……いや、我を意のままにしたい人々の欲のために捨てられた……違うか?」 「……だからなんなの」  昨日まで一緒に遊んでいた友達も、優しかった牧師さんも、そしてこの上ない愛情を注いでくれた両親も──私が『供物』と決まった途端、誰1人私を助けてはくれなかった。  この闇のせいなのか、はたまた怪物の囁きに冒されたのか。私の心はどす黒い炎を激らせる。 「本来、我は愚民共の指示など聞く気もない。……だがキーラ、貴様と我の利害が一致するのなら貴様の願いを叶えてやろう」 「願い……」 「あぁそうだ。貴様の心の奥底にある闇を曝け出せ」 ──なんで私が。  なんで私が、なんで私が、なんで私が、なんで私が、なんで私が、なんで私が、なんで私が、なんで私が、なんで私が、なんで私が、なんで私が、なんで私が、なんで私が、なんで私が、なんで私が、なんで私が、なんで私が、なんで私が、なんで私が、なんで私が、なんで私が……ッ!!  マグマのように溢れ出す何かが私の心を支配した時、ソレは薄気味悪い声を上げて嘲笑う。 「良い……良いぞキーラ!……貴様は愚民共が憎いか?」 「……憎い」 「復讐がしたいか?」 「したい」 「ははははは……ッ!いいだろう、我と取引成立だ。お前の復讐を手伝ってやる!……その代わり、貴様の人生を寄越せ」 「人生?」 「あぁ、貴様は死んでいるからな」  私は全てを考えるのを放棄した。もうどうせ死んでいる。  何も失うものなどないのだから──。 「えぇ、取引しましょう」
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