あの人へ花束を

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 ……気づかれなくていい。自己満足でも。わたしの気持ちが本物なのは、わたしだけが知っていればそれで。でも、もしかしたら先生に何か察してもらえるかもしれない、というほんの少しの希望も込めたくて。  ──気づくと、涙があふれてしまっていた。先生のいるところでは泣かないと心に誓ったのに。  「部長ー、泣いちゃだめだよー」と部員の声がするけど、一度流れてしまった涙は止められない。  背の高い先生に、頭をよしよしとなでられる。きれいな長い指が持つハンカチが、わたしの涙をそっとぬぐってくれた。その感覚にどきどきする。  同時に、二度とこんなふうにされることはないのだ、と思うと寂しくもなった。だからこの指の感触と、元気でねと繰り返す優しい声は、いつまでも覚えていよう。そう強く思った。                                 - 終 -
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