あの人へ花束を

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 わたしたちが入学する数年前まではさびれていたというけど、今の中庭はとてもよく手入れされている。3カ所ある花壇には今はプリムラやデイジーが咲いていて、ベンチが取り巻く木蓮の樹も、徐々につぼみが開き始めている。風が心地よい日にベンチに座ると、とても良い匂いがするのだ。  これだけの変化が生まれたのは、今の顧問である大橋先生の尽力によるものだった。理科の先生だけあって、花のことには詳しく、大人数ではない園芸部員をよく指揮して、校内の花や樹をこまめに世話する態勢に変えた。  当初は、予算の問題とかで校長先生や教頭先生と対立もあったらしいけど、最近では「おかげで来賓の人たちの評判が良い」と、当の先生方に褒められたりもする。園芸部員、さらに現部長としては、鼻が高い。  ただひとつの気がかり、憂い事を除いては。  中庭から戻ると、幼なじみ──滋(しげる)は、チューリップの花壇の前にいた。こちらもつぼみがふくらんでもうすぐ咲きそうな花がちらほら。  「水やり終わった?」  「あと少し」  「早くしてよ」
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