あの人へ花束を

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 今はグラウンドで朝練をする部活の人たちくらいしか居ないけど、あと20分もすれば多くの生徒が登校してくる。それまでに水やりと片づけを終えてしまわないといけない。  わーってるって、と言って滋はホースの向きを変えようとした。と、何の拍子にか手からホースが離れて、シャワーヘッドが近くの桜の幹に当たった。  「ちょっと、気をつけてよ。その桜、先生が樹医さんに頼み込んで看てもらったばかりなんだから。傷つけて寿命短くしたりしたら怒られちゃう」  とは言ったが、大橋先生は優しいから、たぶん怒りはしないだろう。けれど悲しそうな顔はするかもしれない。それはやっぱり嫌だ。  滋が黙ったままなので「聞いてる?」と尋ねた。それでもまだ答えないから、もう無視して片づけの続きをしようと考えていると、滋は全然違う話題を振ってきた。  「なあ、先生、学校変わるんだよな」  「よく知ってるわね」  「掲示板見たから」  「へえ、珍しいじゃない」  そういえば、昨日あたりに確か、今年度で離任する先生の一覧が貼られていた。  ──その中に、大橋先生の名前も含まれている。
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