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「ごめん、気にすんなよ。言うつもりなかったし」
そう言って、ふい、と目をそらした顔は、いつもの幼なじみに似つかわしくない、大人びた表情。子供っぽいとばかり思っていた奴のそんな表情はとても意外で、なんだか恥ずかしくなってしまう。自分自身の、感情を隠し切れていなかった幼さが。
しばらくの、やや気まずい沈黙を破ったのは、また滋だった。
「ところでさ、先生には何か渡したりするの?」
「部員でお金出し合って、花束贈る予定だけど」
「理桜は個人的に、なんかしないわけ」
「──そんなの、できるわけないじゃない。抜け駆けみたいになっちゃうし」
仮にも部長として、一人だけ特別扱いしてほしいみたいな、そんな真似はできない。大橋先生はそうでなくても人気が高いのだし。
「だったらなおさら、理桜が個人的になんかあげても、別に目立たないんじゃないの。部員とか部長としての立場だけで、後悔しない?」
「……っ、偉そうに言わないでよ。何も伝えるつもりなんか、ないんだから」
気持ちを伝えたりしたら、先生はきっと迷惑に思う。そんなのはわかりきったことだ。
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