あの人へ花束を

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 「別に、ストレートに言えとか言ってないじゃん。伝え方なんていろいろあるだろ」  「伝え方……」  オウム返しに繰り返すと、そう、と滋が大人びた仕草でうなずく。はっとして、わたしは花壇をもう一度見た。  それから1週間後。  修了式の後、園芸部員と大橋先生だけで、いつも部室として使っている教室で集まることができた。  「皆さんとお別れするのは寂しいけれど、私が教えたことはきっと引き継いでくれると信じています。来年度からもどうか、園芸部をよろしくお願いします」  先生の、あらためての挨拶の間、普段は集まりの悪い部員も含めて皆、神妙だった。涙ぐんでいる子もいた。  私も、油断するとすぐ涙が流れそうだったけど、一生懸命耐えた。今は泣かない。少なくとも役目を終えるまでは──先生の目がある間は。  そして私の出番が来た。部員の一人から託された大きな花束を持って、先生の前に立つ。  「大橋先生、長い間お世話になりました。次の学校でもどうか、お元気で頑張ってください」  用意していた型通りの台詞を、震えないように心持ち声を張って、最後まで言う。
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