4人が本棚に入れています
本棚に追加
***
一体どういう仕組みになっているのだろうか。
トモダチ・カードから出現した少女・サトミは。訳あって私の部屋に一緒に暮らしている、クラスメートの女の子ということになっていた。平塚慧美。そんな名前の、十四歳の女の子。そう、彼女がカードから出現して設定を決めると同時に、家族や友達の記憶がみんなその通りに書き換わっていたのだ。
サトミちゃんは、私の幼馴染で、親友。
クラスでいつも私を助けてくれて、私の一番の味方になってくれる理想の友達だ。
「……私、クラスでいつも独りぼっちなの」
彼女を連れて学校に行く途中。私は彼女にそう話しかけたのだった。
「去年のクラスで虐められて、そのせいで友達の作り方がわからなくなっちゃって。誰ともまともにお喋りできないまま五月になって、そしたらクラスではいつの間にか女子のグループができてて、私一人がどこにも入れなくなってて。……グループワークとか、席替えが本当に怖いの。誰も、私と同じ班になってくれないと思うから……」
「大丈夫です、里衣子ちゃん。私が、里衣子ちゃんの味方でいます。里衣子ちゃんは、私と同じ班になればいいのです」
「本当に、そうしてくれるの?」
「はい。複数人のグループが必要なら、私が里衣子ちゃんの分まで声をかけます。里衣子ちゃんは何の心配もいりません」
その言葉は嘘ではなかった。サトミちゃんは私のクラスにあっという間に溶け込み(みんなの記憶もいじられているからというのもあるのだろうが)、彼女を介して私もみんなと交流できるようになっていったのである。
ありがたいことに、サトミちゃんは私がやりたくないことは全部代わりにやってくれた。私の心が読めるシステムでも搭載しているのか、私が“これがやりたくないな”と思うと全部彼女が私の代わりに動いてくれるのである。掃除から、人へのちょっとした声かけ、意見出しまで。
それこそ、次の席替えの時もそう。先生の方針で四人か五人の班を作ってから席替えをしなければならなくなった時、私が他の子のグループに声をかけられずに迷っていると、サトミちゃんが三人組のところに行ってくれたのである。
「すみません。私と里衣子ちゃんを、貴女たちのグループに入れてもらえませんか?私達は二人組で、貴女たちは三人組。丁度いいと思うのです」
声をかける相手も、見事に私が“一番嫌いな女子”と思った相手を避けているから見事なものである。
サトミちゃんは美人で、親切で、明朗快活なキャラクター。そんな彼女に一緒の班になりたいと言われて、嫌がる子はそうそういない。例え、地味で根暗な私が一緒にくっついていたとしてもだ。
むしろ彼女に引っ張られて、私も他の子と話すチャンスを与えられている。五月の時には足を運ぶのも苦痛だった教室が、七月初頭になる頃には楽しく通えるようになったのだった。
まさに、トモダチ・カードとサトミちゃんのおかげである。
そのサトミちゃんは、夜眠る時には私に必ずこう言うのである。
「今日もお疲れさまでした、里衣子ちゃん。明日もこの設定を継続しますか?」
私が、はい、と言うと。彼女は翌朝私より早く起きてきてこう告げるのだ。
「おはようございます、里衣子ちゃん。またお会いできましたね。今日もよろしくお願いいたします」
最初のコメントを投稿しよう!