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彼女がロボットなのか、精霊なのか、それ以外の何かなのかはわからない。
確かなことは私が夜に「イエス」と言い続ける限り、彼女は延々と朝「また会えたね」と笑顔で挨拶し続けてくれるということ。そして、私は彼女という友達を得て、毎日を楽しく過ごせるようになるということだった。
「サトミちゃん……私、学級委員だけは絶対なりたくないの。立候補してくれる?」
「はい、わかりました」
「サトミちゃん……あの先生、なんとか言いくるめて遠ざけてくれない?私、あの先生煙草くさくて嫌い」
「はい、わかりました」
「サトミちゃん、私雑巾がけやりたくない。……お願いできる?」
「はい、わかりました」
「サトミちゃん、悔しいよ。川口さんたちが私の悪口言ってた。がつんと怒ってきてくれる?」
「はい、わかりました」
後になって思う。私は、大切なことが何もわかっていなかったのだと。
本当の友達というのは、いつでも私の言う通りに動いてくれるイエスマンではない。むしろ、イエスマンであってはならない。私が間違ったことをした時は間違っていると言ってくれる存在こそ真の友達であると。そして、自分が嫌なことはちゃんと嫌だと伝えてくれるのもまた、一人の人間としての友達であるということを。
私にとって都合のよい、理想の友達。そう設定されたサトミちゃんは、私の頼みを絶対に断らなかった。だからきっと、あんな事件が起きるのもまた必然だったに違いない。
「鎌倉さんさぁ、平塚さんのことどう思ってるわけ?」
ある日、私が苦手としている女子グループのリーダーがそんなことを言った。茶色く染めた髪を弄りながら、明らかに悪意をもって。
「なんていうか二人の関係って、本当の友達っぽくないんだよねー。だって、なんか、鎌倉さんが平塚さんのこと奴隷にしてるってかんじ?良くてご主人様とメイドみたいな。なんか、何でも言うことを聞いてくれるつー、変な上下関係を感じるっつーか?……鎌倉さんにとって、平塚さんってなんなわけ?なんでもハイハイ言うこと聞いてくれる都合の良いお友達?それ、本当の友達っていうわけ?」
悪意をもってその言葉をぶつけてきたのは明白だった。でも、今思うと彼女の言葉はけして間違っていなかったのだとわかる。そう、私は友達が欲しいと言いながら、自分で友達を作る努力を放棄していたのだ。己を愛してくれる保証がなければ、何でも言う通りにしてくれる保証がなければ、自分にとって嫌なことを言わない保証がなければ友達になってなりたくない。理想の友達とは、己のことを全て肯定してくれる、絶対的な味方だと――そんな風に思い込んでいたのである。
だから、冷水を浴びせられた気持ちになった。そして、思わずその場で激怒してしまった。
「ひ、酷い!さ、サトミちゃんは私にとって本当の友達なんだから!あ、あんたたちに何が分かるの!みんな嫌い、大嫌い!」
私が怒っただけなら、何も問題はなかっただろう。最悪だったのは、その場にサトミちゃんが一緒にいたこと。私が彼女達を憎み、消えて欲しいと願ったことを悟られたこと。
「承知しました、里衣子ちゃん。排除しますね」
「え」
次の瞬間、サトミちゃんは少女二人を階段から突き落としていた。私の目の前から、大嫌いな彼女たちを消し去るために。
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