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いつか、自分の場所へ帰る人だと、分かっていたのに──
ふわ、と温かい何かに体が包まれた。ヴォルギルがアトレを抱き締めたのだ。驚いて両手を顔から離すと、代わりに彼の両手が、頬を包んだ。顔が近づく。
──離れたくない。
初めての触れ合いが、アトレを、見たことのない夜の底へと引きずり込んでいった。
翌朝、身を包んでくれていたヴォルギルの体が、唐突に離れた。直後に気づく、外の物音……人の声と動物の鳴き声。
服を放り投げられ「早く着て」と慌てたように言われる。切迫した雰囲気にアトレは逆らえず、言われたままに服を身に着け始めた。どうにか全部着終わった頃、ばたばたと階段を上がってきていた足音が、扉の前で止まる。
「誰か居──殿下!」
「おお、よくぞご無事で」
「ロムレス、ガーディン。其方たちこそよく無事だったな」
「刺客たちを倒した後、しばらく潜伏しておりました。すぐに殿下を探すのは得策ではない、残党に気づかれてはいけないと思いまして」
はっ、とヴォルギルがアトレを振り返り、気まずそうな表情を浮かべた。それを見て、何もかもが分かってしまった、そんな気がした。
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