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「赤ん坊の頃、わたしは森の中に、おくるみに包まれて置き去りにされていたそうなんです。少し離れた所に争った跡があって、倒れていた男の人と女の人が、年頃からしてわたしの両親だったんじゃないかって、父は」
洗い物を干しながら、アトレは語った。拙く手助けをしながら、尋ねる。
「それからずっと、父君と二人で?」
「そうです。ここを訪ねて来る人はほとんどいませんし、父はわたしを育てるのに懸命で、弟子を取ることもありませんでした」
「君は、いくつだい」
「今年で十六になりました」
と言った時のアトレの表情は、どこか複雑そうだった。
一呼吸の間を置き「あなたは?」と尋ねられる。
「もうすぐ二十一だ。……十六ということは、妹とあまり変わらないな」
「妹さんがいるんですか」
「ああ……だがおそらく、もうこの世にはいない」
「え」
「十中八九、家を襲った連中にやられているだろう。いっそひと思いに殺されていれば、まだ救いもあるが」
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