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美しい妹だった。素直で純真で、あと半年もすれば婚約者の元へ嫁ぐことが決まっていた──せめて妹が召される前に余計な苦しみがなかったことを。そう祈るしかないのが、辛い。
「ヴォルギル?」
「あ、……ああ、すまない。余計なことを言った」
「いいえ。差し支えなければ、貴方のお家のことも、聞かせてもらえませんか」
優しい、こちらを気遣う口調でアトレは言った。彼女の、邪気のない澄んだ声で名を呼ばれると、心が清められるようだった。呼ばれ慣れていない名にもかかわらず……否、だからこそなのか、自分が新しい自分になれるような。たとえ錯覚であってもその気分は快く、抗いがたいものだった。
ならば彼女に対し、己について語ることも、清めのひとつになるかも知れない。そんな思いとともに、ヴォルギルは家のこと、家族のことをアトレに話した。
「私の家は、古い家でね。もう三百年以上続いている。父が十二代当主で、私は十三代目を継ぐ、そう決まっていたんだ。兄はいたが庶子だったし、女に継承権は原則的に無い家だから。
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