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柔らかく笑んで、少女は部屋を出ていった。一人になるとまたもや、昨夜──でなく、四日前のことに思考が及ぶ。
父上、母上。兄妹たち、側仕えの者たち。
「……すまない……」
自分は何もできなかった。守ることも戦うことも。逃げろという声に従って、ただ逃げただけ──
新しい涙が流れ、頬へ、掛け布へとこぼれていった。
運んできた卵と野菜の汁を、青年はゆっくりとだが平らげた。次いで、気付けの薬湯も飲み干す。四日も目を覚まさない彼に心配は募っていたが、この分だといずれ元気を取り戻しそうだ、と判断する。
果たして、その日の夜には、寝台から降りて食事を椅子と机で摂るまでに回復した。若さの分、体力も回復力もあったのだろう。ひとまず安心するが、気になることは当然ながら沢山ある。とりあえずは。
「あの、すみませ、ん。なま、えは」
「え?」
食事を摂りながら発した質問に、青年は首を傾げた。言い直す。
「貴方の、こと何と呼べ、ばよいですか」
「……ああ」
理解の表情を見せたものの、青年はすぐに答えなかった。
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