夕立が呼んだ恋

5/9
30人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 会話からすると二人は母娘のようだ。ということは店員さんは、ここのご主人の奥さんなんだろうか。 「おにいちゃんおねえちゃん、あそんで!」  目を輝かせて女の子、加奈ちゃんは言った。こら、と奥さんがたしなめる。 「加奈、お父さんは?」 「ねてるー」 「もう、あの人ったら」  困り顔で奥さんはつぶやき、加奈ちゃんを連れて奥へ行こうとした。そこに中埜くんが声をかける。 「加奈ちゃん、何して遊ぶ?」  その一言に、母娘が同時に振り返った。加奈ちゃんは期待に満ちた顔、奥さんは当惑した表情で。 「ばばぬき!」 「いいよ、トランプ持っておいで」 「あらまあ、ごめんなさい。いいのかしら」 「大丈夫ですよ、別に急ぎませんから」  そう言って中埜くんは微笑んだ。その表情がずいぶんと優しく見えて、私は初めて彼に対し、どきりとした。  結局、私も混ざって、3人でババ抜きをすることになった。トランプなんていつ以来だろう。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!