夕立が呼んだ恋

8/9
前へ
/9ページ
次へ
「そろそろ止みそうね。あっ、お茶のお代わりする?」  二階から降りてきた奥さんに尋ねられる。後ろから、やや眠たそうな顔で姿を現したのが、きっとご主人だろう。 「いえ、大丈夫です。そろそろ失礼します」 「あら、ちゃんと止むまでいていいのよ」 「それにはおよびません。そんなに遠くないので」 「じゃあ、このお菓子持って帰りなさい。加奈と遊んでくれたお礼」  と、紙で包装された和菓子らしきお菓子を数個、奥さんは袋に入れた。2人分。 「はいどうぞ。あなたも」  差し出された袋を受け取り「ありがとうございます」と返す。その発言が中埜くんの声と重なり、思わず目を見合わせた。 「おにいちゃんたち、かえっちゃうの?」 「ごめんね。また遊びに来るよ」  優しく言う中埜くんにうなずいた後、加奈ちゃんは私の方を見る。期待に満ちたまなざしに、応えないわけにはいかなかった。 「私も、また来るね」 「うん! ふたりでいっしょにきてね」  二人で、と言われても。反射的に困ってしまったけど、 「わかった。必ず来るよ」  中埜くんはごく自然に応じてそう言った。指切りまでしている。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加