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雨音はもう聞こえなくなっていた。
じゃあ失礼します、と外へ出る中埜くんに続いて、私もお辞儀をして店を出た。引き戸が閉まるまで、加奈ちゃんはずっと手を振ってくれていた。
空はまだ曇っていて、小雨が止み切っていない。でもこのぐらいなら走って帰れそうだ。
「もうすぐ止むよ。遠くが明るいから」
中埜くんが指さす先を見ると、確かに雲が切れた先に、少しだけ青空が見える。
「月曜も部活? 今日と同じぐらいまで」
「う、うん」
「じゃ4時に、ここで待ち合わせる?」
「えっ」
「あの子に約束したから。守らないとね」
なんだ、そういうことか……そりゃそうだよね。
「わかった。じゃあ4時に」
「またね」
さっと左手を上げて、走っていく中埜くんの後ろ姿を見ながら、私はその約束を複雑だけど嬉しいと感じていた。
彼と、また会う理由ができたから。
同級生でしかなかった彼を見る目が、この1時間ちょっとで、すっかり変わってしまった。徐々に止んでいく小雨を見つめながら、私はそのことにも、はっきりした確信とともに気づいていた。
- 終 -
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