僕と彼女、私と彼の、クリスマスイブの一夜

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 淹れたばかりのコーヒーの水面に、ため息が落ちる。  考えてもしょうがないと頭ではわかっていても、反射的な心の動きまでは制御しきれない。頭を軽く振って考えを追い払い、皿に載せたケーキとともに、コーヒーカップをお盆で運んだ。 「どうぞ」 「ありがとうございます」 「じゃあ、いただきます」  いただきます、とやけに丁寧に手を合わせて、男性はまずコーヒーをすする。それからおもむろにケーキにフォークを入れ、食べ始めた。  私も同じ順序でケーキを攻略しにかかる。白い生クリームのドームの中は、薄いスポンジが二段になっていた。スポンジの間には粒入りのイチゴムースが挟まれ、その上にはイチゴ色のクリームが詰められている。  変わり種のショートケーキという感じで、シンプルだけど美味しい。コーヒーを一口、のついでに向かいを見ると、男性は食べかけのケーキをじっと見つめている。なにやら深刻そうな表情が気になって、尋ねてみる。 「どうかしました?」 「え?」 「なんだか、深刻そうな顔してらしたから……もしかして、イチゴがお嫌いとか」 「いや、そんなことは」
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