僕と彼女、私と彼の、クリスマスイブの一夜

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 どうせからかう相手はいないのだから、とこれまた気まぐれに、そのケーキを買おうと思い立った。 「「すみません、これを」」  店員にかける声が重なり、えっと思って、自分ではない声の相手を互いに見る。  ああやっぱり、綺麗な人だ。目を大きく見開き、口を少しだけ開いたそんな表情でも、相手を美人だと思った。  何秒かの沈黙の後、先に動いたのは女性の方だった。 「すみません、このケーキふたつください」  なんだ、ちゃんと一緒に食べる相手がいるのか。  軽い失望とともに思い、何も買わず帰ろうかと考えた時。  ケーキの入った箱を掲げて、女性が言ったのだ。 「一緒に食べませんか?」      ◇  その人を誘おうと思ったのは、一人でケーキを買いに来ていたからだけではなかった。  こんな日のこんな時間に男性がケーキ屋に来るというのは珍しいから、よほどの甘党なのかもしくは一人で今夜を過ごすのか、どちらかだと思ったのだ。  同時に同じケーキを選んだ時、きっと後者だと確信した。  そして、なんだかシンパシーを感じてしまった。
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