僕と彼女、私と彼の、クリスマスイブの一夜

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 どうせ私も今夜は一人だ。ちょっと気まぐれを起こして、初対面の男性と少しばかり羽目を外してもいいだろう。普段なら考えないそんなことを、この時は思ったのだった。 「……は?」  当然ながら私の誘いに、男性はあんぐりと口を開けた。 「失礼ですけど、今日はおひとりなんでしょう? 私もなんです。こんな日に一人はちょっと残念だから、ご一緒できる人がいればいいなって、そう思って」  我ながら、ずいぶんと大胆な物言いをしている。自分がこんなふうにふるまえるなんて、新鮮な驚きだった。  けれど、男性は答えない。冷静に考えてみれば、当たり前だ。いくら本当に一人だったとしても、いきなり見も知らぬ人間の誘いに乗ったりはしない。それが普通の人の反応だ。  自分の軽はずみな行動を、ようやく後悔し始めた。店の人の視線も気になる。この人は何やってるんだろう、と思われているに違いない。  焦りをにじませつつ「あの、ご迷惑でしたらケーキだけでも……」と言いかけた時。  男性が、私が掲げたケーキの箱を、ひょいと取り上げた。 「そうですね。じゃ行きましょうか」 「えっ」
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