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いや、正しく言うなら、彼はとっくの昔に浮気相手に心を移していたのだろう。だからさほど迷うこともなく相手との結婚を決め、私に別れを告げた。彼の、申し訳ないと言いつつも表情の乏しい態度を見る限り、そういうふうに感じられた。
頭ではそう理解しても、心を納得させるのは難しかった。なんといっても五年付き合ってきて、結婚をお互いに意識していると信じて疑わない相手だったから、裏切りは思った以上に心に堪えた。
人の気持ちなんて当てにならない。運命の相手なんていないかもしれない。
そんなふうに思いながら迎えた、クリスマスイブ。
しばらくイルミネーションを眺めた後、そっと、隣にいる相手の様子をうかがった。ケーキ屋ではあまりよく見ていなかったが、横顔だけでもなかなかのイケメンだ。背も高いし仕事ができそうな雰囲気でもあるのに、こんな人でも彼女がいなくて一人クリスマスだったりするのか。
と、相手がこちらをふいに振り向き、目が合う。まともに視線がかち合ったことに驚き、ついで、急にドキドキしてきた。顔をイルミネーションの方向に向け直す。
「綺麗ですね」
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